【週末は女子プロレス♯62】高卒→就職→プロレス界、鈴芽の人生変えた“運命の出会い” 粒ぞろいの「98年度組」

東京女子プロレスのシングルナンバーワンを決めるトーナメント「東京プリンセスカップ」の4強が出そろった。本欄掲載の13日に準決勝、翌14日に決勝が東京・後楽園ホールでおこなわれ、夏の最強女子が決定するわけだが、ベスト4の中でも躍進著しいのが、まもなくキャリア3年となる鈴芽である。

新人枠からの脱却を狙う鈴芽【写真:新井宏】
新人枠からの脱却を狙う鈴芽【写真:新井宏】

「東京プリンセスカップ」4強入り、時代を動かすビッグチャンス

 東京女子プロレスのシングルナンバーワンを決めるトーナメント「東京プリンセスカップ」の4強が出そろった。本欄掲載の13日に準決勝、翌14日に決勝が東京・後楽園ホールでおこなわれ、夏の最強女子が決定するわけだが、ベスト4の中でも躍進著しいのが、まもなくキャリア3年となる鈴芽である。

 準決勝には山下実優vs渡辺未詩、坂崎ユカvs鈴芽が組まれており、誰が勝ち抜いても初優勝。団体のエース格である山下、坂崎に優勝経験がないのが意外でもあり、だからこそ対戦相手には脅威となるだろう。また、アイドルとの二刀流で女子プロ屈指のパワーを誇る渡辺も、初制覇を虎視眈々と狙っている。それだけに、この中に入る鈴芽の劣勢は免れそうもない。

 とはいえ、ここは一気に時代を動かすビッグチャンスでもある。なにしろ鈴芽は準々決勝にて元プリンセス・オブ・プリンセス王者で、7・9大田区でのビッグマッチではメインで現王者・中島翔子に挑戦したばかりの辰巳リカに勝っての進出なのだ。プリンセスカップは3年連続の出場で、2020年2回戦、21年準々決勝敗退も着実にステップアップを遂げている。しかも彼女は、辰巳に憧れてプロレスラーになったのだから、この勢いを逃す手はないだろう。

 高校時代まで、プロレスについてまったく知らなかったという鈴芽。友人に熱心なファンがいたのだが、いろいろ聞かされても当初は興味が持てなかったという。ところが……。

「高校を卒業し就職して社会人になってから、そういえば友人が話していたプロレスを見てみたいなって思ったんです。学生時代に見せてもらった写真が東京女子プロレスで、その中に辰巳リカさんもいました。写真を見ながらエピソードとか聞かせてもらいましたね。映像は少し見たんですけど、試合の様子はほとんど知らないまま、友人に新木場での大会に連れて行ってもらったんです。17年の年末でした」

 初めてプロレスに触れたその大会で、なぜだかよくわからないけれど、鈴芽は辰巳の虜になった。プロレスの魅力に心を奪われた。

「リカさんをかわいいと思ったし、試合を見てホントにくぎ付けになってしまいましたね。不思議と怖いというのはまったくなくて、ただただ女の子たちが闘ってる姿がカッコいいし、汗も涙も全部がキラキラしてて、こんな世界があるんだって思いました。東京女子を初めて見て知って、東京女子を好きになってしまったんです」

 その後、月に一度のペースで会場に足を運ぶようになった。しだいに自分もプロレスをやってみたいと考えるようになったという。が、すでに仕事も持っている。決心するまでには時間がかかった。

「東京女子の選手が全力で生きている姿を見て、私も何かに全力で打ち込んでみたい気持ちになったんです。ただ、それがプロレスだとはその時点では思えなくて。でも、それってちょっとビビってたというか、自分にできるのかなという気持ちがあったからだと思うんですよね。ホントはもうその時点でプロレスをしたかったんですよ。迷いながらも数カ月見ていくうちに、やっぱり私はプロレスをしてみたいと思って、リカさんにお手紙を書きました。その時点で私の気持ちはもう固まっていて、手紙を書くことで逃げ道を断つというか、好きな人に自分もやりたいんだと伝えることによって、背水の陣を敷いたんです」

 幸い、辰巳本人から返事をもらった。「プロレスは簡単じゃないしケガもする。危ないことだけど、本気なら応援するよ」という趣旨の言葉をかけてもらえたのだ。スポーツはバレーボールくらいしか経験のなかった鈴芽だが、自己流ながらもトレーニングを重ね、準備してから団体に連絡を取った。そして入門が認められ、練習生として入団。本格的に練習を始めてから7カ月後の19年8・25後楽園、タッグマッチ(中島翔子&里歩組vs舞海魅星&鈴芽組)で初めてリングに立ったのである。

「痛いことが多いんですけど、練習がすっごく楽しかったんですよ。新しいことができるようになるのがとにかく楽しくて。もちろん挫折もメチャクチャあるけど、ちょっとずつでも憧れの人たちに近づいているというのが、すごく楽しかったんです」

 さすがにデビュー戦では緊張して「試合前後ずっと泣いていた」というものの、練習生時代から辛さよりも楽しさの方がずっと上回っている。鈴芽というリングネームやキャラクターにも自身のアイデアが生かされており、それも大きなやりがいにつながっているようだ。

「もともと黄色をイメージカラーにしたくて、黄色と黒の組み合わせにしました。スズメバチにすることで危険なイメージにもしたいなと思って。鳥のスズメじゃなくて、スズメバチの方です(笑)。以前から先輩たちに相談したときに『鈴の字を入れたらどう?』って言ってもらってて。コスチュームも自分のデザインです。経験があるわけじゃないけど、お絵描きするのが好きだったので。プロレスをしていく上で、小さい頃から好きだったこととか夢をいろいろ拾い集めてる感じがしますね」

「東京プリンセスカップ」4強入りを果たした鈴芽【写真:(C)東京女子プロレス】
「東京プリンセスカップ」4強入りを果たした鈴芽【写真:(C)東京女子プロレス】

過去にプリンセスタッグ王座に3度挑戦、狙うは新人枠からの脱却

 これまでプリンセスタッグ王座に3度挑戦。いずれもベルト奪取には至っていない。今年4・9後楽園では遠藤有栖との“でいじーもんきー”で“マジカルシュガーラビッツ”坂崎&瑞希組のタイトルに挑み善戦したのだが、まだまだ新人のチャレンジマッチ的イメージを崩すまでにはならなかった。

「マジラビさんは東京女子の象徴みたいなタッグチームで、ホントにすごく遠いなと思いました。だからこそ、越えなきゃいけないと改めて思った試合でもありましたね。私ってありがたいことに、デビュー当時から期待の新人、期待の若手みたいに言ってもらえることが多いんですね。それがプレッシャーにもなっているというか、おこがましいなとも思っていて。それからずっと結果を出せてないんですよ、タッグでもシングルでも」

 そんな状況で臨んだのが、今年の「東京プリンセスカップ」だった。「いつまで期待の新人でいるんだろうという気持ちが強くて、とにかく結果がほしいとの気持ちがトーナメントに対しては強くありましたね」と言う鈴芽。2回戦の原宿ぽむ戦では勝利後、マイクで「辰巳リカを超えます!」と宣言。これも入門前の手紙同様、退路を断つ覚悟を伝えるためのアピールだった。「リカさんはベルトに挑戦したばかりで、いま乗りにに乗ってる“ヤバい辰巳リカ”だと思うんですね。ぽむさんを超えたらリカさんがいる。このタイミングでリカさんと闘いたいとの気持ち(がモチベーションになった)」とのことで、有言実行。7・31大手町での準決勝で、憧れの辰巳から初めての3カウントを奪ってみせたのである。

「憧れの人ってことで、トーナメントで勝つよりもリカさんに対する気持ちの方が上回ってしまったんですけど(苦笑)、これを奇跡で終わらせたくないと思ってます。応援してくれてる人から『負けちゃったけど頑張ったね』と言われるのは、もう終わりにしたいです」

 狙うは、新人枠からの脱却だ。東京女子には鈴芽と同世代の選手が多い。鈴芽と猫はるな、遠藤、荒井優希が「98年度組」と言われる同学年で、乃蒼ヒカリも1998年生まれ。らくが97年生まれで、99年生まれには早生まれの宮本もかと、渡辺未詩がいる。

「私が入ったときは同い年って猫さんしかいなかったんですけど、どんどん増えてうれしいですね。先輩も後輩もいますけど、仲間でありライバルであり。切磋琢磨して高め合っていける環境にいると思います」

 新世代の中で、SKE48の現役アイドル荒井が赤井沙希とのコンビでマジラビを破り、タッグのベルトを巻いた(7・9大田区)。先を越された感のある鈴芽だが、荒井に対しての意識はどうなのだろう?

「私はシングルで負けてるので、追いかける立場だと思ってます。悔しい気持ちはもちろんあるけど、尊敬というか。いまは尊敬の気持ちの方が強いかもしれないですね」

 また、空手家&女優&看護師の経歴をひっさげて東京女子に参戦する長野じゅりあについては、「プロレスではまだまだだと思うんですけど、ほかにメチャクチャすごい武器を持ってるので、うまく融合したらすごいことになると思います。これからが楽しみですよね」と期待を寄せている。

 そして、なによりも「東京プリンセスカップ」制覇のチャンスが目の前に広がっている。準決勝であたる坂崎にはここまでシングルで0勝3敗。とはいえ辰巳からも4度目のシングルで初勝利を挙げベスト4入りを決めただけに、坂崎突破も決して不可能ではないはずだ。

「ユカさんとのシングルはいつも厳しいんですけど、その中でもここまでおいでというか、成長させてくれようとする優しさを感じるんですよ。でも、たぶん今回は優しくないと思います。私を成長させる必要がないシチュエーションですから、余計に厳しい試合になるかなと思ってます。実際、勝つのは無謀かもしれないです。でも、リカさんのときもゼロではない可能性を少しずつ積み上げてこじ開けたと思ってるので、(準決勝&決勝も)やることは同じかなと思ってますね」

 では、初の優勝を勝ち取ったら?

「夏の主役なので、夏祭りプロレスをしたいですね(笑)。いまどのくらい飲食できるかわからないけど、夏の夜にリングたててお祭りみたいな感じにして。とにかく、東京女子をもっと多くの人に知ってもらいたいです。8月28日には後楽園で女性限定興行もありますし。私もファンとして憧れてプロレスラーになった立場なので、いままで知らなかった子に見てもらって、あの頃に抱いたのと同じような気持ちになってもらえたらうれしいです。そして、一緒に闘える子が増えたらさらにうれしいですね!」

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