ゴールデンタイムのヒットメーカーに聞いた「Breaking Down」人気の秘密と改善点

現在、毎週土曜日の20時から放送中の「炎の体育会TV」。この番組の総合演出を務める、“TBSの映像職人”坂田栄治氏は「ズバリ言うわよ」や「マツコの知らない世界」などのヒット番組を手掛けてきた、いわばゴールデンタイムの仕掛け人。その坂田氏が最近、気になる格闘技イベントがあったという。昨今話題の「Breaking Down」である。第一線のテレビマンである坂田氏は同イベントの何が気になったのか。

「BreakingDown5」であいさつする朝倉未来【写真:山口比佐夫】
「BreakingDown5」であいさつする朝倉未来【写真:山口比佐夫】

いかに既存のものではない波を作れるか

 現在、毎週土曜日の20時から放送中の「炎の体育会TV」。この番組の総合演出を務める、“TBSの映像職人”坂田栄治氏は「ズバリ言うわよ」や「マツコの知らない世界」などのヒット番組を手掛けてきた、いわばゴールデンタイムの仕掛け人。その坂田氏が最近、気になる格闘技イベントがあったという。昨今話題の「Breaking Down」である。第一線のテレビマンである坂田氏は同イベントの何が気になったのか。(取材・文=“Show”大谷泰顕)

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「思っていた時代が来たなって思いましたね」

 最近、注目度MAXの「Breaking Down」について坂田氏が率直に感想を述べた。もちろん注目を浴びる原因は数あれど、やはり既存の格闘技に飽きている。これが大きな理由のひとつではないか。

「それも感じました。新しい格闘技を求めているんだなって」

 そして、そう話した坂田氏が次に発した物言いが、実にテレビマンらしい見解だと感じるものだった。

「例えば、100メートル競争で世界一速い人への興味って、あるにはあるけど、ひと昔前に比べると、本当に薄れている。だから世界一に対する興味が確実になくなってきている時代なんだなって思いましたね。一部の格闘技ファンはともかく、それ以外の人たちには、UFCのチャンピオンに対する興味ってないんだなって。価値観を世界一だけに置くとエンタメはビジネスとしてダメなんですよ」

 世界最強への興味が薄れている! これはなかなか衝撃的な発言だった。なぜなら男の子ならば誰もが一度は「強くなりたい」と思い、その頂点に誰がいるのか。その存在を調べ、憧れを持ちながら格闘技に興味を持つ。それがスタンダードな格闘技と接する第一歩だったはず。

「そうじゃなくて、親近感のある人のなかで、自分が応援している人が勝つかどうか。そっちの興味のほうが上になっているし、それでしか今は感情が動かないのかなってことがすごく分かったじゃないですか。だから世界一強い誰かを連れてきても、その人が誰か分からなかったら、見ていられないんだなって思いました」

 要は、そこに時代性を感じたという話なのだが、それでも坂田氏は「ハッキリ言って面白くはなかった」と斬って捨てた。

「ハッキリ言うと、本物と比べちゃったらヒドいもんですよ。見れない。でも、そこに面白かったって評判があるってことは、面白いんですよ、それが。だから、あれが面白いという価値観を持たないといけないし、今はあれが他にないから面白いと思われているのかもしれないし」

 この言葉には思い当たるものがあった。最近、TBSの人気番組「SASUKE」が五輪種目に入る、という話が一部メディアに取り上げられた。話の発端は、五輪種目の見直しを視野に実施された障害物レースのテスト大会で、「SASUKE」のセットが使用されたためらしいが、この話を聞いても、既存のものではない次の段階を求める声が高まってきているのは事実だろう。

「そういう声は確実にあるでしょうね」と坂田氏は答えたが、この声は自身が総合演出を務める「炎の体育会TV」でも連日行われ、最近では8月20日に放送される同番組で実施するKAT-TUNの上田竜也VS那須川天心のオリジナルルール対決をはじめ、いかに既存のものではない波を作れるか。常に「挑戦」の姿勢を保ち続けるよう心がけている。

「怪力バトルフィールド」に出演する王鵬、碧山、佐田の海、逸ノ城、照ノ富士、若隆景、玉鷲、大栄翔、阿炎(左から)【写真:(C)TBS】
「怪力バトルフィールド」に出演する王鵬、碧山、佐田の海、逸ノ城、照ノ富士、若隆景、玉鷲、大栄翔、阿炎(左から)【写真:(C)TBS】

「怪力バトルフィールド」が興行になったら面白い

 実際、来る8月7日には、18時から3時間「現役力士VS肉体派芸能人 怪力バトルフィールド」なる特番も立ち上げ、現在、当日に向けて編集の真っ最中。これはタイトル通り、第73代横綱・照ノ富士を筆頭に現役力士が、オードリーの春日ら肉体派芸能人と全6種目のオリジナルゲームを競い合う。

「この年齢になってスポーツばっかりやっていますね。縁が格闘技とかスポーツになってきているから。どこまで延長線上でこういうことができるか。リアルにスポーツ中継をするのが難しくなってきたんですよね。時代的にもそうだし、金銭的な問題でも。だから、少なくともバラエティーでスポーツをフィーチャーする試みができたらいいなって、今は常に頭の中にアンテナを張っていますけどね」

 しかも「Breaking Down」ではないが、次なる展開も、頭のどこかには思い描いている。

「相撲協会の人たちに協力して頂いて『怪力バトルフィールド』が興行になったら面白いですよね。お相撲さんのファン拡大にもつなげられたらうれしいしですし」

 夢は果てしないが、そんな視野を持ちながら、今の時代の産物として「Breaking Down」をテレビマン的な視点で見ていくと、たしかに、いわゆる格闘技ファンや関係者とは違ったものの見方ができてしまうのだろう。

「『Breaking Down』に関しては、例えば、誰かが『あのパンチの仕方、変じゃね?』とか『防御の仕方、変じゃね?』なんて言ったって、それはもう玄人かそれをマネしたい人が言うだけの話で、マス(大衆)でみんなが見るためのものになるためには、その人が誰なのか、そっちのほうが重要なんですよね。それが分かれば、その人の応援の仕方が分かればいいんだなって。だからそういう新しい時代が来たなって思いましたね」(坂田氏)

 おそらく今でもその意見に賛同する割合は一定数いると思われるが、ひと頃の格闘技界には「素人のけんかが一番面白い」という見解が存在した。まさに「Breaking Down」は、それを地でいく大会なのだろうが、坂田氏は、やはりテレビマンの視点で「俺ならこうするなっていうのがありますよね」という改善案があることを匂わせた。

「俺はね、あそこまで行ったら、闘う場所にリングを作らないですよ。じゃないと面白くないでしょう。制作費があるんだったら、それ相応の、例えば路上だとしても、見た目を変えちゃうな、もうちょっと」

 要は、視覚的な効果を考えて、もっと路上に近いものにしたらどうか、という提案だった。

「だってあんなことをやっているのに、金網のオクタゴンのなかでやるっていうのが意味が分からないじゃないですか。もし金網にするにしても、もっとストリートぽいものにするなって思いましたね。あれじゃあ、今までと変わっていないですよね」

 まだ格闘技にひきずられている?

「ひきずられていますね。例えばコーナーポストを街にあるガードレールっぽくするとか、もっと絵になる可能性はあるのに、もったいねえなと思いましたね」

 そうなると安全面を問われる場面が出てくるのでは?

「それを安全なものにするんですよ。全部、鉄じゃなく、ゴムにするとか。下は柔らかくして、床もクッションを入れるとかね」

朝倉未来は「Breaking Down」のウルトラマンになる気はないのか!?
朝倉未来は「Breaking Down」のウルトラマンになる気はないのか!?

ウルトラマンは誰か?

 さて、「Breaking Down」が賢い選択を取ったと感じる点に、「1分最強」を掲げた点が挙げられると思う。これが3分だと素人には動き続けることが難しくても、1分ならなんとかなる可能性は上がる。不特定多数の「見る側」にしても1分なら凝視し続けられるからだ。これに関して坂田氏は、「それはあると思うんですけど」と話しながら、「Breaking Down」の根本的な課題を示した。

「やっぱりヤンキーばっかり出てくるのは見づらい気がしますね。あれだけいると、メジャーにはなりにくい。どれだけ行ってもアングラ止まりになっちゃうかなー」

 たしかに「見る側」からすれば、ある程度は違ったキャラがいたほうが面白いのは事実だろう。実際、今の「Breaking Down」は、一時期、注目度が高かった「THE OUTSIDER」の代わりになっている気がする。

「今は『THE OUTSIDER』の延長線上にあるものですよね。今後はいかに正規の人を増やすか。それとベビーフェイスは誰なのか。今は全員がヒールばっかりだから。それは難しいと思うな」

 その点は、噂にあるように、朝倉未来が「Breaking Down」に上がるようになれば、「誰が未来を倒すのか」という分かりやすい視点が生まれる。

「やっぱりウルトラマンがいないと。主役ですよね。絶対的なエースは必要ですよ」(坂田氏)

 歴史を紐解けば、キックボクシングは今から46年前に当たる1976年、ボクシングのプロモーターだった野口修氏が、ムエタイとの異種格闘技戦を実現させるために作ったとされ、UFCにしても今から27年前の1993年、グレイシー一族の長男、ホリオン・グレイシーが米国の広告マンだったアート・デイビーと組んで誕生させた。ご存知の通り、キックボクシングもUFCも、今や全世界の格闘技ファンから愛される競技になった。

 果たして「Breaking Down」はその道を進むことができるのか。これに関して坂田氏は、「厳しいんじゃないですか?」と話した。

「UFCだって最初は過激な場面もありましたけど、結局、やり続けたらスポーツ化していくしかない。選手にしても、相手に勝ちたいとなったら格闘技の練習をするしかない。そうなると、『Breaking Down』のゴールはRIZINでしかないんですよね。今のやり方を続けていくと……」

 そのための手っ取り早い改善策は、先にも例を挙げた通り、「闘う土俵をいかに変えるかじゃないですかね」と坂田氏は言う。

「今はまだ変えられていない気がしますけど、逆にいえば、見た目を変えるだけで、かなりの部分が変わっていくんじゃないかな。だから、なおさらあのリングでやっちゃいけない気がするんですよね。それだと新しいスポーツにはならない。結局は同じじゃないかって」

 とにもかくにも、既存の格闘技ではない「Breaking Down」が今を感じる一番のイベントなのは間違いない。だとしたら今後はさらに大きく飛躍するためにも、次なる変革を一考する選択はアリかもしれない。

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