初映像化「ワンナイト・モーニング」 作者・奥山ケニチが描くきっかけは「クレヨンしんちゃん」

奥山ケニチが青年マンガ誌「ヤングキング」で連載中の「ワンナイト・モーニング」がWOWOWで実写ドラマ化され、8月5日から放送・配信がスタートする。「恋愛」と「食欲」をテーマに展開される物語は、一夜を過ごした男女が朝ごはんを共にするまでの時間を描いたもの。初連載がドラマ化されたことを喜ぶ奥山に、作品が誕生したきっかけや、映像化されたことで新たに引き出されたという作品の魅力について聞いた。

原作の「ワンナイト・モーニング」1巻(左)と最新刊の7巻【写真:(C)奥山ケニチ/少年画報社】
原作の「ワンナイト・モーニング」1巻(左)と最新刊の7巻【写真:(C)奥山ケニチ/少年画報社】

5日放送・配信スタート、奥山に聞く作品の魅力

 奥山ケニチが青年マンガ誌「ヤングキング」で連載中の「ワンナイト・モーニング」がWOWOWで実写ドラマ化され、8月5日から放送・配信がスタートする。「恋愛」と「食欲」をテーマに展開される物語は、一夜を過ごした男女が朝ごはんを共にするまでの時間を描いたもの。初連載がドラマ化されたことを喜ぶ奥山に、作品が誕生したきっかけや、映像化されたことで新たに引き出されたという作品の魅力について聞いた。(取材・文=西村綾乃)

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 物語には高校時代に思いを寄せていた同級生、童貞卒業を前にマッチングアプリで出会った男女など、さまざまなカップルが登場。互いの心と身体の隙間を埋めるように、一晩を共にする。

「“ワンナイト”をした男女が朝ごはんを食べるという設定は、僕の担当をしている編集者さんの提案でした。僕は連載を目指す上で、連載に耐えうる題材が思い付かなくて、長い間悩んでいたのですが、ある日の打ち合わせで担当さんから提案され、『あ、なんか面白そう』と直感的に思ったことが始まりです。最初は読み切りとして『梅干しのおにぎり』(2019年)の話を描いたところ、予想以上の反響をいただき、あれよあれよという間に連載に繋がり、今に至ります。担当さんの提案がなければこの作品は確実に生まれなかったので、本当に感謝しています」

 同作を連載する「ヤングキング」は青年向けのマンガ誌だが、胸がキュンとなるやり取りは「エモい」と女性からも強い支持を獲得している。2019年4月からは同誌で連載を開始。アイデアはどのような時に生まれるのだろうか。

「ネタ出しは毎回とても苦労していますが、基本的にはテーマの食べ物を決めて、その食べ物が似合いそうな男女やシチュエーションを想像して話を作っています。ちなみによく実体験を描いたりしてるのかと聞かれますが、全て妄想です(笑)」

 ドラマ化されたのは8組のカップルの物語。第1話「梅干しのおにぎり」には俳優の上杉柊平と芋生悠が出演した。最終話まで総勢16人の若手実力派が、それぞれの恋模様を見せている。

「映像化されると聞いた時は、めちゃくちゃ驚きました。映像化は1つの目標でもあり夢でしたが、まさか初連載がドラマ化されるなんて想像もしていませんでした。夢を叶えていただき、とても嬉しくありがたい気持ちでいっぱいです。静止画だったキャラクターたちが、役者のみなさんの素晴らしい演技によって生きて動いている姿がドラマならではの大きな魅力の1つだと思います」

奥山にとって朝食とは「1日を始めるスイッチみたいな物」

 放送前に全話の映像を見た奥山は「作者の僕も気付かなかったキャラクターの魅力を知った」と感慨。中でも俳優の前田旺志郎と女優の池田朱那が購買のタマゴサンドを競い合う高校3年生に扮した第5話「タマゴサンド」には、膝を打つ場面もあったと振り返る。

「ドラマ版のたまごサンドは、原作のたまごサンドとたまご蒸しパンの2話が合体した話になっているのですが、それがとても自然にまとまっていてすごく驚きました。蛭田直美さんが書いて下さった脚本はほかにも『なるほど、ここはこうすれば良かったのか!』などと勉強になる所も多くてとても刺激を受けました」

 ドラマにはハニートースト、牛丼、カップラーメンなど、いろいろな朝食が登場する。奥山にとって、朝の食事とはどのようなものなのだろうか。

「朝ごはんは1日を始めるスイッチみたいな物だと思います。昨日を終えて今日を始める区切りのようなものというか。食べ物でなくても起き抜けに飲む白湯だったりコーヒーだったりもそうだと思ってます。好きなメニューは、ミニスナックゴールドです」

 大人になり切れない主人公たちの甘酸っぱく、ほろ苦い“夜と朝”に寄り添い、読者の心をつかんだ奥山。心に生まれた思いを「マンガ」で表現しようと思ったきっかけは、ある作品との出合いだった。

「5歳の頃、『クレヨンしんちゃん』に出合い、『マンガ家になりたい』と思いました。僕にとって現実の世界は辛いことが多くて、昔からマンガは現実逃避をする場所でした。なのでマンガを描き出した当初から、『読み終わってホッとするような、悲しみの気晴らしになるような作品を描きたい』と思っています」

 作画期間中は、音楽や深夜ラジオを聴き続けているという奥山。「1970年代のロックが大好きなのですが、6時間くらいあるプレイリストを1曲も飛ばさず聴き終わってた時は、流石に自分でも引きました」と苦笑い。机に向かい続けた後に、楽しみにしていることがあるという。

「最近はマンガを描き終わったらゲームセンターに行きクレーンゲームをやることにハマってます(笑)。原稿疲れの虚な目でひたすらお菓子を取ってる男がいたらそれが僕です」

 間もなく始まる放送を、奥山も心待ちにしている。

「ドラマ版『ワンナイト・モーニング』は、柿本ケンサク監督の斬新で美しい映像表現と、蛭田さんが描いた温かく、時にリアルで生々しい人間らしさ、そして俳優の方々の素晴らしい演技が相まって、原作より更に感情の深度が増したとても素敵なドラマになっています。ぜひご覧になって下さい!!」

 番組は、WOWOWプライムにて毎週金曜日の午後11時から放送。WOWOWオンデマンドでは各月の初回放送終了後、同月放送分が一挙配信される。

■奥山ケニチ(おくやま・けにち) 1989年生まれ。小学館「週刊ビッグコミックスピリッツ」で毎月開催される新人賞「第214回スピリッツ賞」に応募した「スマイル★スマイル」が佳作を受賞(2009年)。講談社「モーニング編集部」が募った「第7回THE GATE大賞」では「磯部くんとパンツ」が大賞を受賞(18年)した。東京工芸大卒業。

次のページへ (2/2) 【写真】ドラマ「ワンナイト・モーニング」の一場面 池田朱那と前田旺志郎
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