過熱するメダカブーム、求められる飼育や売買のあり方とは 第一人者・青木崇浩氏に聞いた

古くから日本で親しまれている淡水魚・メダカの“空前のブーム”が到来している。家庭での飼育だけでなく、交配をさせての色や形の改良、観賞用の品種の売買が盛んに行われている。こうした中で、高騰化が顕著で、ネット上の売買を巡って詐欺まがいのトラブルや盗難も横行。メダカの総合情報サイト「めだかやドットコム」代表で、第一人者の青木崇浩氏(46)に、過熱するブームの変遷、求められる飼育や売買のあり方について聞いた。

オーロラ系3色ラメ メダカは見た目も抜群にきれいだ【写真:株式会社めだかやドットコム】
オーロラ系3色ラメ メダカは見た目も抜群にきれいだ【写真:株式会社めだかやドットコム】

ペット市場では「犬、猫に次ぐ規模」に拡大 「メダカは命であり日本文化なんです」切なる思い

 古くから日本で親しまれている淡水魚・メダカの“空前のブーム”が到来している。家庭での飼育だけでなく、交配をさせての色や形の改良、観賞用の品種の売買が盛んに行われている。こうした中で、高騰化が顕著で、ネット上の売買を巡って詐欺まがいのトラブルや盗難も横行。メダカの総合情報サイト「めだかやドットコム」代表で、第一人者の青木崇浩氏(46)に、過熱するブームの変遷、求められる飼育や売買のあり方について聞いた。(取材・文=吉原知也)

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 青木氏がサイトを立ち上げたのは、2004年のことだ。この20年で改良メダカが瞬く間に産業として成長。現在品種は500以上あるとされ、色は約10種類。背中が光って見える「ヒカリメダカ」、丸い体型の「ダルマメダカ」といった体の特徴や、100匹に1、2匹とされる希少で人気の高い「3色メダカ」など、多様な品種が市場をにぎわせているという。

「サイトを始めた当時は趣味の範囲といった具合で、BBS(電子掲示板)で情報を共有して楽しむ感じでした。それが、全国に一気に広がり、(体が透けて見える)アルビノメダカは1匹3万円、ダルマメダカは5万円といったように、どんどん値段がはね上がっていきました。金魚、鯉に続く『第3の魚になるか』なんて言われていたのが、それを突き抜けてしまい、ペットのマーケットでは、犬、猫に次ぐ規模にまで大きくなりました」。新型コロナウイルス禍の影響で拍車がかかっているようで、「在宅ワークによって家に水槽を置きたいと考える人が増え、QOL(生活の質)を求める中で、鑑賞魚がちょうどよかったのでは。小型犬がはやりを見せているように、小さな魚の手軽さもうけているようです」と分析する。ただ、メダカは基本的に、太陽光や空気中のバクテリアが取り込める屋外で飼うもので、室内での飼育は難しい側面があるという。

 小さな水槽さえあれば、誰もが飼えるという簡単さ。飼育する人が飛躍的に増加する一方で、「売ること自体のブーム化が起こり、中には、メダカがお金に見えてくる人も出てきました。飼育を楽しむのではなく、副業としてしか捉えない現状もあるのです」と嘆く。

 過熱人気とともに、いくつかの問題も生じている。最近取り沙汰されているのが、ネット取り引きを巡る詐欺まがいのトラブルだ。事前の説明とは異なる品種の卵を売りつけるケースなどが報道されている。同サイトでは、「突然変異種などの根拠のない表記がある」「ネット上の画像は色味を簡単に変えられるため、届いた色が画像と違うなどの問題も多くあるそうです」などと注意喚起を行っている。

「売る側も買う側も証明できないこともあるんです」

「購入した卵が違うものに育つ問題は、卵がかえって3か月、半年が過ぎてから分かることなので時間差が出てきてしまう。そもそも、卵からちゃんと育てられるのは1割程度。9割の人が、違うものを買わされても気付かないという問題もあるんです。盗難被害については、私自身も過去に経験しています。それに、色によって高額な値段が付くので、高く売るためにネット上で画像の色を調整する業者がいるとみられます。でも、業者から『モニターによって見え方が違う』なんて言われたら、買う方は文句を言えなくなってしまう。また、珍しい品種は1匹100万円、その子どもの稚魚は5万円、10万円という値段が平気で付きます。隔世遺伝の観点から、子どもに同じ特徴が発生するとは限りませんが、突然変異の場合もあって確定的なことは言えません。売る側も買う側も証明できないこともあるんです」。現状は複雑だ。

 業界全体の構造的な課題があるといい、「メダカ業界に資格制度はありません。本来は売る側がしっかりと適切な知識を持つ必要がありますが、買う側が知識武装をしなければいけないという悲しい現実があります」。悪質な業者については、「悪いことと分かっていて詐欺的なことをしている業者は一部で、実は間違っていることにすら気づいていない業者もかなりあると思います」とのことだ。

「未成熟」の業界。簡単に始められて敷居は低いが、その先がしっかりと確立されていない。そこで大事なのは、正しい飼育法や基礎的な知識、科学の見識を学ぶことだという。

「メダカの文化を大切に残していくには、基本的なことから勉強することです。私たちの先祖は、害虫を食べてくれるメダカを田んぼに放して、米を育てて収穫してきました。それで私たちのいまがあるわけです。先人たちの知恵を現代に昇華して落とし込むのは、すごく大事な考え方だと思っています。ネットの情報だけをうのみにするのではなく、専門書や説明書を読んで、自分自身も実際にやってみて、実体験とすり合わせて、確かめていくことです」。さらに続けて、「メダカは“国魚”だと思っているんです。メダカをより楽しむためには、売る方も、買う方も、しっかり勉強をして、責任を持って飼うことです。またメダカについて深く知ることは、日本文化のすばらしさに触れることでもあります。副業や稼ぎばかり注目されてしまっていますが、メダカは命であり日本文化なんです」と思いを込めた。

□青木崇浩(あおき・たかひろ)。1976年、東京・八王子生まれ。2004年に立ち上がったメダカ情報サイト「めだかやドットコム」創設者。16年から「めだか×福祉」をテーマに事業展開。ガラス水槽に水草などを取り入れて仕立てる「めだか盆栽」を開発。成層圏に打ち上げる“宇宙計画”を進めている。

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