腕利き整備士が惚れた“もはや骨董品”の1台 あえてサビ残し、奇跡の復活まで「もう少し」

人生と切り離すことのできないお気に入りの1台と、もうすでに存在しない国産メーカーの貴重な1台。腕利き整備士の熊澤武さん(41)は、情熱的なバイク乗りでもある。「いつまでも楽しく乗ってもらえるように、お客さんの気持ちに応えたい」と、日々車両の修理やメンテナンスに心血を注ぐ熊澤さんの“バイク愛”にあふれた2台を紹介してもらった。

「ライラック R92」は自慢の愛車の1つだ【写真:ENCOUNT編集部】
「ライラック R92」は自慢の愛車の1つだ【写真:ENCOUNT編集部】

カワサキ&丸正自動車の旧車バイク 前オーナーの面影をあえて残すこだわり

 人生と切り離すことのできないお気に入りの1台と、もうすでに存在しない国産メーカーの貴重な1台。腕利き整備士の熊澤武さん(41)は、情熱的なバイク乗りでもある。「いつまでも楽しく乗ってもらえるように、お客さんの気持ちに応えたい」と、日々車両の修理やメンテナンスに心血を注ぐ熊澤さんの“バイク愛”にあふれた2台を紹介してもらった。(取材・文=吉原知也)

 原付から10トントラックまで幅広く扱う自動車・バイク整備工場「アートモータース」(神奈川県平塚市)のメカニックを担当する熊澤さん。正規品の部品がなくても、ネット購入でも、親身になって懇切丁寧に対応してくれることで評判だ。

 熊澤さんの人生の1台。カワサキ・W1SAだ。1972年式で、6年前に念願かなって手に入れた。前職の後輩の父が持っていたもので、倉庫にずっと置いてあったものを、足繁く通って懇願・説得。転売しないなどの条件付きで譲ってもらった。

 一番のお気に入りは、ふかした時のエンジン音。「聞いた瞬間に、この音にやられました。一発でハマりました」。いつまでも魅了されている。また、タンクの色合いはブルー。通常は赤みがかったオレンジが多く、珍しいカラーリングだという。フルレストアせずに、前のオーナーの味を残している。

 フロントには好きなシールを貼って個性を出している。カワサキW1シリーズのオーナーズクラブの試作品の部品などを搭載し、実証も兼ねている。イベント出展をする際には、カワサキバイクの愛好家らに驚かれるという。自慢の愛車は「大事であり、一生欠かせないもの。ずっと乗り続けます」と力を込める。

 そして、かつて存在した丸正自動車の64年式の「ライラック R92」。地元京都のバイク仲間のつながりから入手したもので、自身が旧車に目覚めた20歳の頃からのあこがれの1台だという。

「実は“アガリの1台かな”なんて思っていたぐらいのものなのですが、手元にきて。周囲からは『もはや骨董品』なんて言われているんですよ」。

 走行距離の表示板を見ると、約3.5万キロ。長らく倉庫に眠っていたようだ。外観は綺麗に手入れされているが、フロントフェンダーやマフラー部分などところどころにサビが残っており、時代の流れを感じさせる。これは“あえて”だというのだ。

「もちろんタンクの中身などはサビを落としてしっかりコーティングしていますが、外装はなるべくこのまま。サビや傷みから感じ取れる年月の歩み、歴史の重み、そして前のオーナーの面影や雰囲気を残したいんです」と思いを込める。

 デザインや構造からは、当時の職人の粋を感じ取ることができるという。

「基本はBMWのコピーで、エンジンはほぼ同じですが、電装等は日本風にアレンジしてあります。それに、チェーンを使用せず、車のシャフトドライブのような構造になっています。これは創業者がチェーンが切れてしまうことを考慮したようで、こうした丁寧な仕事に、心意気を感じるんです。これこそがメーカーの信頼性ですよね。それに、タンクの形状がどことなくイタリア車の雰囲気を醸していて、いまのバイクにはないデザインです」。

 とっておきの計画が進行中。年内にも車検を通して、復活させるつもりだ。「これ、動くの? とびっくりさせるのも僕の人生のテーマの1つです。キャブレターの整備は終わったので、もう少しで完了します。眠っていたバイクがまた走ると考えるだけで、ワクワクドキドキしますよね」と目を輝かせた。

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