【オヤジの仕事】息子3人名門大のアグネス・チャンさん「ファザコンとよく言われる」そのワケは?

父・ヘンリーさんをとても尊敬しているという【写真:山田隆】
父・ヘンリーさんをとても尊敬しているという【写真:山田隆】

父の教えの正しさを理解するまでは苦しんだ

 父が亡くなってから、母から父のことをいろいろ教えてもらいました。父は第二次大戦後、中国共産党に拘束され思想教育を受け、1年弱でなんとか解放され香港に戻ったこと。私たち家族の生活が苦しくても、父のきょうだいたちに援助をしていたこと。父は貿易会社を経営していたのですが、自分たちの生活を後回しにしてでも親戚を助けていたそうです。苦労話や愚痴は言いませんでした。そんな父をとても尊敬しています。私も人の役に立ちたいと、ボランティアやユニセフの活動に力を注いできましたが、父には一生及ばないと思います。

 カナダのトロント大学を卒業した後、日本の芸能界にカムバックしましたが、歌う意味が見つかりませんでした。この道をきて本当に良かったのだろうか、と当時は後悔しました。気持ちが切り替わったのは、29歳の時。母の故郷を訪れ、またエチオピアで飢えに苦しんでいる子供たちと接したのをきっかけに、歌を使ったボランティア活動に力を入れてきました。それが私の真の幸せにつながりました。売れているかどうかに流されず、自分の人生の目標に向かって行動する、という父の教えは正しかったと思います。

今も心の中で「お父さん、どう考えますか?」と問いかける

 私は父の「裏切られたりいじめられたりしても、憎むのではなく、その人の幸せを祈りなさい」という言葉が好きです。ただその人を許すよりも、その人が幸せになれば、もう自分を気にかけなくなっていじめたりしなくなり、自分もその人も幸せになるから、というのです。子供の頃は父の言うことを理解できないと思いましたけど、父が亡くなってから最高のアドバイスだな、と実感するようになりました。

 父は「迷ったら一番難しい道を選ぼう」とも。私も、私の息子たちも好きな言葉です。私は今も悩んだり、迷ったりしたとき、心の中で「お父さん、どう考えますか?」と問いかけてしまいます。ファザコンとよく言われるんですけど(笑)。私は意外と優柔不断で、なかなか自分で結論が出せないんです。だから、お父さんに答えてほしい、とすごく思います。

 4年前、「スタンフォード大に三人の息子を合格させた50の教育法」(朝日新聞出版)を出版し、香港でも翻訳本が大ヒット。今は香港や中国、台湾での講演会やサイン会がすごく多いのですが、そんな私のことを、父は天国でどう思っているのかな。喜んでいるのか、不安ですね。確かめることはできませんからね。

□アグネス・チャン (あぐねす・ちゃん)1955年8月20日、香港生まれ。14歳のとき、スカウトされ香港でデビュー。1972年、「ひなげしの花」(ワーナー・パイオニア)で日本デビュー。アイドル歌手として人気絶頂の1976年、突然、引退しカナダ留学。1978年、トロント大学を卒業し日本の芸能界へ復帰した。1986年結婚。翌1987年、長男を出産すると職場へ連れて行き“アグネス論争”が巻き起こった。2018年、長年のユニセフでの活動などを認められ旭日小綬章受賞。3人の息子を米国の名門・スタンフォード大学に入学させた賢母としても高く評価されている。2020年3月「子供の一生を幸せにする24の食育術」(ぴあ)、 同年4月「〔アグネス流〕10歳までに鍛えておきたい20の能力~これからの時代に活躍できる子に育てるために~」(PHP研究所)上梓。

次のページへ (3/3) イケメンだった父。アグネスさんとよく似ている
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