25歳の実力派女優・古川琴音が歩んだ道のり 中学で演劇部立ち上げ直訴、演技がしんどかった過去

はにかんだ笑顔は少女のよう。視線を床に落とすと、印象的な目の周りに色香が漂った。古川琴音(25)は不思議な女優だ――。瞬間で変わる表情を逃したくないと、食い入るようにファインダーを覗き込んだ。さまざまな役をこなす実力派だが、「正解がないことが怖くて、演技を辞めようと思ったことがあった」と吐露。インタビュー中、自分の感情と向き合い、言葉を探す真摯(しんし)な姿に胸が熱くなった。

映画「今夜、世界からこの恋が消えても」に出演する古川琴音【写真:ENCOUNT編集部】
映画「今夜、世界からこの恋が消えても」に出演する古川琴音【写真:ENCOUNT編集部】

難病を抱えるヒロインを支える親友役「苦しかった」

 はにかんだ笑顔は少女のよう。視線を床に落とすと、印象的な目の周りに色香が漂った。古川琴音(25)は不思議な女優だ――。瞬間で変わる表情を逃したくないと、食い入るようにファインダーを覗き込んだ。さまざまな役をこなす実力派だが、「正解がないことが怖くて、演技を辞めようと思ったことがあった」と吐露。インタビュー中、自分の感情と向き合い、言葉を探す真摯(しんし)な姿に胸が熱くなった。(取材・文=西村綾乃)

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 29日に公開される映画「今夜、世界からこの恋が消えても」は、一条岬の同名小説が原作。眠りにつくと記憶を失ってしまう、実在する難病「前向性健忘」を患ったヒロイン・日野真織(福本莉子)と、少女を献身的に支える主人公の少年・神谷透(道枝駿佑/なにわ男子)の切ない恋の物語だ。古川は真織の親友・綿谷泉を演じた。

「原作を読んだときは、胸が締め付けられるような展開に衝撃を受けました。私が演じた泉は、唯一ふたり(主人公とヒロイン)の全貌を隣で見ていた人物。撮影中は真織が困っていないかと、常に真織のことを考えていました」

 メガホンを取った三木孝浩監督は、2月のクランクインに合わせ、演者ひとりひとりに「役の覚え書き」を手渡したという。

「そこには泉を演じる上で大切にして欲しいこと。監督が泉を思う気持ち、愛情がたくさん書かれていました。記憶は生きていく上で足かせにも原動力にもなるもの。その大切さに気付いた少年少女が、記憶に翻弄されていく姿。その“あがき”を撮りたいと。監督から『泉は十字架を背負っているんだよ』と言われていたので、いただいた手紙は泉を演じる上で、お守りになりました」

 古川が最初に登場するシーンは、江ノ島を臨む湘南海岸で撮影を行った。ほかにも横浜や藤沢など、生まれ育った神奈川県が主な舞台だった。

「撮影した場所は、学生のときによく遊んでいた場所でした。江ノ島もよく行っていたので、海を見た瞬間、懐かしい記憶がよみがえりました。母校の近くで撮影があったときは、部活動を見てくれた先生に連絡をしたのですが、コロナ禍で会うことができなかったことが残念でした」

 4歳からバレエとピアノを始め、発表会などで舞台に立つ楽しさを知った。中学進学後には、入学した時点では学校になかった「演劇部」を立ち上げた逸話も持つ。

「バレエに変わる何かを探していたとき、演劇に興味を持ちました。入学した中学は、私たちが1期生だったので、いろいろなことが整っていなくて。演劇部もなかったので(中高一貫校の)高校で演劇部の顧問をしていた先生に、『中学校にも演劇部を作って欲しい』とお願いに行きました。とても熱心な先生で野田秀樹さんの『赤鬼』など難しい作品に取り組みました。日本を代表する劇作家の方々の作品に触れることができたことは、良い経験になりました。同期の部員は3人しかいなかったので、卒業公演は先生も演者になって、4人でやりました」

 中学・高校と続けた演劇。立教大学進学後は、ダンスサークルに入ろうと考えていたと言う。

「部活動では、演劇の楽しさを教わりましたが、同時に難しさを知りました。例えば『おはよう』というセリフひとつでも、その言葉を発するまでにどんなプロセスがあるのか、口にする人物がどんな心情なのかを考えなくてはいけない。それは深めても深めても、正解はないので、『苦しいな』と思ったんです。中でも中学で取り組んだ別役実さんの『天神さまのほそみち』は、先生に何度も『違う』と言われて、涙を流しながらやりました。『良くなった』と周囲に言われても、その実感がわかなくて。いろいろな人から言われる感想もみんな違うから『しんどい』と思ったんです。大学進学後にダンスに転向しようかと悩んだのは、自分がお芝居に向いていると感じなかったこと、ダンスは技術を積めば着実にレベルアップできると考えたことが理由でした。でも、親しくなった先輩が所属していたことから、英語劇のサークルに入部したんです」

 正解がないことが「苦しかった」ともがいた時期を経て、現在は「正解がないことが楽だと思えるようになった」と一皮むけたようだ。

「そのときに心が向いた方に進んできたので、今の仕事をしているなんて想像もしていませんでした。大学では人類学や、心理学など人間に関するいろいろなことを学んだので、脚本を読んだときにピンとくることも多くて。大学時代に種を撒かれたことが、花開いているのかなと感じることもあります。決められたことをなぞるのならば、私じゃなくてもよくなってしまう。自由度が高いことはうれしいことなんだと思えるようになったんです。いろいろなリアクションがあることも、今はいろいろな響き方をしたのだなと前向きにとらえられるようになりました」

 映画では、眠ると記憶をなくしてしまうヒロインが、目覚めた自分に昨日経験したことを伝える「ノート」が登場する。未来を生きる自分に、古川は「今を楽しみ、感謝することを忘れないでと伝えたい」と思いを込めた。

 物語の終盤、真織を守るために奔走する泉が、泣きじゃくる場面がある。共演者たちの記憶を背負い、つなぐ重要な役どころは「ずっとプレッシャーだった」と明かした。閉じ込めていた感情を爆発させる姿に、安堵と愛おしさを感じた。

□古川琴音(ふるかわ・ことね)1996年10月25日、神奈川県生まれ。沖縄市観光PR動画「チムドンドン コザ」で2018年にデビュー。同年公開の映画「春」で初主演を務めた。NHK連続テレビ小説「エール」(20年)、「この恋あたためますか」(20年)など多くのドラマに出演。映画では主演のひとりを務めた濱口竜介監督の「偶然と想像」(21年)で、「第19回シネマ夢倶楽部」が新しい時代の映画や才能、意欲的な活躍をした新世代に贈る「推薦委員特別賞」を受賞した。161センチ。

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