普通のOLからカンヌ女優へ 50歳で信長の言葉に触発され一念発起、62歳の“生きる道”

興収31億円の大ヒット、社会現象を巻き起こした映画「カメラを止めるな!」に続き、フランス版リメイク「キャメラを止めるな!」(公開中)にも出演した女優の竹原芳子は62歳。シニアの星というべき存在。普通のOLからいかにして女優になったのか?

「カメ止め」のフランス版リメイクにも出演する竹原芳子は【写真:ENCOUNT編集部】
「カメ止め」のフランス版リメイクにも出演する竹原芳子は【写真:ENCOUNT編集部】

竹原芳子インタビュー、「カメ止め」のフランス版リメイク「キャメラを止めるな!」出演

 興収31億円の大ヒット、社会現象を巻き起こした映画「カメラを止めるな!」に続き、フランス版リメイク「キャメラを止めるな!」(公開中)にも出演した女優の竹原芳子は62歳。シニアの星というべき存在。普通のOLからいかにして女優になったのか?(取材・文=平辻哲也)

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「幸運の神には前髪しかない」ということわざがある。チャンスは目の前にある時に捕まえないと、逃げてしまう。そんな意味だ。竹原はまさにそんな前髪をしっかりつかんで、カンヌ女優の仲間入りを果たした。

 もともと証券会社の店頭営業、裁判所での事務などを経験した普通のOL。50歳の時に、NHK大河ドラマで見た織田信長の「人間50年」という言葉に触発され、「信長なら死んでいる。やり残したことをやりたい。死んだつもりなら何でもできる」と自分の好きな道を歩もうと決意。吉本興業の養成所NSC(吉本総合芸能学院)に入ったり、趣味で始めた落語に磨きをかけた。58歳の時にはスイスへ初の海外一人旅にも行った。

 最大の転機になったのは2017年。東京・新宿のK’sシネマで今泉力哉監督作品「退屈な日々にさようならを」の舞台あいさつを見に行ったことだった。映画専門学校「ENBUゼミナール」がワークショップ「シネマプロジェクト」の第6弾映画だった。

「俳優募集のチラシを見かけて、最初は関係ないなと思ったんですけど、ロビーでサンドイッチを食べていたら、もう一回、そのチラシが目に飛び込んできたんです。さっきの映画もこれで作ったんや、自分の名前が映画に入るのもええなって。チラシを持って帰って、裏の募集覧に書き込んで、ファックスしました。いろんなタイミングがちょっとでも違っていたら、今のようにはなっていなかったと思います」

 小さい頃の夢は、競馬のジョッキー、調教師。「動物が好きだったんです。でも、ちゃんとした夢はなかったですね。短大を卒業した後、大手繊維会社を落ちて、もういいやと思っていたら、短大の先生が電話をくださって、勧めてくれたので、証券会社を選んだだけ。勤めていた時に、NSCの募集を見て、悩んだこともあったけど、仕事もあったし、人に相談したところで反対されるな、仕事もあるしな、と思ったんです」。

「カメ止め」の撮影は1日だけ、それも午後からの撮影だった。しかし、唯一無二の存在感が目に止まり、その後はドラマや映画で引っ張りだこ。リメイク版「キャメ止め」でも、プロデューサー役を射止め、「カメ止め」キャストで唯一の出演となった。

竹原芳子(中央)の出演シーン【写真:(C) 2021 - GETAWAY FILMS - LA CLASSE AMERICAINE - SK GLOBAL ENTERTAINMENT - FRANCE 2 CINEMA - GAGA】
竹原芳子(中央)の出演シーン【写真:(C) 2021 – GETAWAY FILMS – LA CLASSE AMERICAINE – SK GLOBAL ENTERTAINMENT – FRANCE 2 CINEMA – GAGA】

「キャメ止め」は製作費5億円 「カメ止め」はノーギャラも本作は「ご想像にお任せします」

「話を頂いたときはあー、うれしい。フランスに行ける! って(笑)。衣装は日本からも持っていったんですが、それは採用にならなくて、サイズが大きかったので、袖や丈を切って、ヨウジヤマモト風になったんです」。

 撮影はパリ郊外で5日間。「食事は倉庫みたいなところにキッチンカーが来て、前菜から始まるフルコースの毎日。びっくりしましたね。スタッフは20人もいなかったくらい。日本映画の方が多いくらいでした。覚えていったフランス語はボンジュール(こんにちは)とメルシーボークー(ありがとう)だけ。通訳さんもいましたから」。

「カメ止め」は製作費300万円。ワークショップとして製作した作品だったため、ノーギャラどころか授業料を支払っての出演だった。一方、「アーティスト」でアカデミー賞作品賞、監督賞など5部門を受賞したミシェル・アザナヴィシウスが監督し、ロマン・デュリスが主演した「キャメ止め」は製作費5億円と言われ、「カメ止め」の約166倍。さぞ高額のギャラをもらえたのでは、と水を向けると、「ご想像にお任せします。たくさん頂きましたって言っております」と笑い。

「キャメ止め」は今年5月のカンヌ国際映画祭でオープニングを飾り、レッドカーペットと上映に参加した。「試写は落ち着いて見られなかったんですけども、(上映は)声を出して笑いましたね。スタンディングオベーションもすごくて、思わず感極まりました」と振り返る。

 すべては「カメ止め」があってこそ。「ありがたいことですよね。最初は上映されるか、どうかという状態から始まって、口コミで広がった。本当に皆さんのおかげです。映画祭もたくさん経験させていただきました。さぬき、ゆうばり、イタリアのウディーネ……。インドネシア日本映画週間2018では、スタンディングオベーションが起こって、そこでもウルウルきました。連続ドラマ、講演の依頼、それから、本の執筆も。いろんな話が想像以上、いただいていて、できることは何でもやってる。行くとこ行くとこ、新鮮です」と今をおう歌している。

 第二の人生では、生涯女優を宣言する。現在は事務所にも所属せず、マネジャーもつけていない。「(マネジメントの業務は)ボケ防止になっています。営業をやっていたので、人と話をするのは苦じゃないんで」。証券ウーマンの経験も無駄にはなっていない。

□竹原芳子(たけはら・よしこ)1960年2月10日、大阪府出身。「カメラを止めるな!」(2017)で映像作品デビュー。以降、間座公演「発明王」人間ロボット役、「クリスマスコメディ」店員役、ドラマ「ルパンの娘1.2」映画「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~」(19)「ルパンの娘」(21)に出演。22年「還暦のシンデレラガール」初著書出版。現在フリー。身長147センチ。

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