“おじさんTikTok”365日更新で地方企業が大成長 支えるのは4人の若き女性広報

広報活動にSNSを取り入れている企業が増えている。情報の発信や社風の伝達、学生へのアピールなど、さまざまなメリットがある一方で、大変なのが企画立てや日々の更新作業だ。“おじさんTikTok”で知られ、SNSを365日更新している兵庫の三陽工業株式会社に、SNS活用の成果と運営方法を聞いた。

おじさんTikTokのライブ配信風景【写真:三陽工業提供】
おじさんTikTokのライブ配信風景【写真:三陽工業提供】

バズらせるための毎日更新

 広報活動にSNSを取り入れている企業が増えている。情報の発信や社風の伝達、学生へのアピールなど、さまざまなメリットがある一方で、大変なのが企画立てや日々の更新作業だ。“おじさんTikTok”で知られ、SNSを365日更新している兵庫の三陽工業株式会社に、SNS活用の成果と運営方法を聞いた。(取材・文=水沼一夫)

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 白髪がまじったおじさんたちが音楽に乗って踊り出す。フォロワー5万8000人を誇る同社のTikTokは、いまや社外とコミュニケーションを図る大事なツールの1つだ。アカウントを開設したのは、2021年2月。動画の出演者でもある同社の小杉義明取締役の発案だった。

 動画の更新は365日欠かさない。「平日は毎日お昼休みの時間で撮っていて、土日の分は木曜日とか金曜日に2本撮りしてる形ですね」と、SNS戦略を担当する広報グループのグループリーダー・加賀史穂理さんは話す。

 SNSではいかにバズらせるかがテーマだ。

「どのSNSもそうなんですけど、毎日更新というのは基本中の基本でして、TikTokに関しても、2日以上更新しないとおすすめに出てくる率が下がっちゃうよっていううわさがあります。実際にTikTokの中のAIのデータが出ているわけじゃないので、一般的な予想でしかないんですけど、2日間更新しないと、おすすめに出にくくなる(傾向がある)。そうすると、バズりにくくなるので、毎日投稿することがバズらせるための一つの基準というんですかね、そこにはこだわるというか、もう当たり前のこととして行ってます」と、はっきりした狙いがある。

 企画の立案は、4人の広報グループで行っている。30歳の加賀さんが最年長と若く、全員が女性だ。

日々の会議で“名案”が生まれることも【写真:三陽工業提供】
日々の会議で“名案”が生まれることも【写真:三陽工業提供】

毎朝のミーティングはわずか10分

 出演者と動画の内容を決めるミーティングは毎朝、わずか10分程度で終わる。一方で、「その前段階が結構長い感じですかね。勤務外でSNSを見たりとか。各自チェックして、良かったものを保存してもらって、それを全員で書き出してというような形ですね」と、アイデアを膨らませるための下準備には手間をかけている。SNSは際限のない世界。特に勤務後の作業は疲れないのだろうか。「TikTokに関しては楽しく見れるものなので、お家で見ていても特に苦にはならないですね」と、加賀さんは笑った。

 TikTokが軌道に乗ったのは、始めたタイミングもあったと加賀さんは指摘する。ツイッターやフェイスブック、ブログなどさまざまなツールを使い分ける三陽工業の中で、最も強力なSNSになった。「他のSNSに関してはやっぱり、先行者利益を取れなかったというのがあります。TikTokは先行者利益をガッツリと取れた形でした。おそらく今からスタートしていたら、同じ結果にはなっていなかったと思います」と、冷静に受け止めている。

 TikTokで世に知られるようになり、会社の認知度は高まった。今年入社の新入社員の6人のうち3人は、TikTokを通しての応募だった。昨年11月に実施した中途採用でもTikTok内で募集し、1人を採用した。「有料の求人媒体を使って募集するのではなくて、採用コストを一切かけずに経験を持っている方を採用できたので、それはすごい成果だと思ってます」(加賀さん)。2023年の新卒採用では、会社説明会へのエントリーが前年比1.5倍に急増した。

 また、会社に対するイメージにも好影響を与えていると、加賀さんは明かす。三陽工業はバイク部品のパーツの研磨する製造業からスタートし、リーマンショックの影響で売り上げが半減したことをきっかけに、製造派遣事業に軸足を移した。16年に発足した「生産推進グループ」というビジネスプランが軌道に乗り、売り上げを上昇させた。さまざまなSNSは「生産推進グループ」の仲間を増やすために開設された。その中でもTikTokのユニークな配信動画はZ世代を中心とする若者に新たな企業像を植えつけた。4月には公式サイトも一新している。

おじさんTikTokerにほっこり…SNS戦略で会社の知名度は飛躍的に向上【写真:三陽工業提供】
おじさんTikTokerにほっこり…SNS戦略で会社の知名度は飛躍的に向上【写真:三陽工業提供】

「工業」のイメージを中和するSNS

「三陽工業という名前自体もやっぱり『工業』ってついちゃってるので、重いような感じのイメージがあるじゃないですか。なのでそのへんをちょっと中和させるため、SNSの運用ですとかホームページのポップさでギャップを出すとか、そのあたりは全部狙って行っています」

 16年に加賀さんが入社した際は、広報さえいなかった。営業として採用された後に、広報の立ち上げに携わり、SNSでの発信に力を入れてきた。ここ10年で、年商は10倍に跳ね上がり、会社の規模は急拡大している。現在、社員数はパートを含め1640人ほどだ。

 広報が担う役割は、ますます大きくなる。加賀さんは「これからの時代、会社をアピールする力、ブランディング力が大切ということは一般的にも言われている。今後、広報グループをもっと大きくしてさらに会社に貢献したいと思ってます」と、結んだ。

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