俳優のムロツヨシ（46）が、コメディー路線を封印。少女失踪事件の捜査に執念を燃やす刑事役で新境地を見せている。撮影中は主人公の孤独をまとい続けるため、堀部圭亮や今野浩喜ら共演者の輪から離れ一人の時間が多かったというムロ。「しっかり神輿を担いでもらった」と感謝するが、喜劇俳優としての血が騒ぐ場面があったと振り返っている。（取材・文＝西村綾乃）

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　7月24日に放送を開始するWOWOW「連続ドラマW　雨に消えた向日葵」は2008年に「第3回日本ラブストーリー大賞」でエンタテインメント特別賞を受賞した吉川英梨の同名小説が原作。全5話の物語では、ある少女失踪事件の真相を追う刑事・奈良健市（ムロ）と失踪した少女の家族の苦悩と執念の日々が描かれている。

「20歳の時からずっと喜劇をメインにやって来ました。今回いただいた本は何度読んでも笑うところがなくて、これまでとはずいぶん違う角度のものが来たなとびっくりしました。でも僕が持っている別の一面をじっくりと見ていただくいい機会。自分の役者の部分を信じてやりました」

　奈良が刑事を志したのは、実の妹に降りかかった、ある事件がきっかけ。以降、心を閉ざし生きる妹に対し、「守ることが出来なかった」という後悔を抱えて生きている。

「最初に考えたのは、大きい使命感を持ってやれるのかということ。妹の身に起きたことを目の前で見た奈良は、過去を捨てられずその苦しみと共存して生きている。自分と向き合えず、妹にも思いをぶつけられなくて、でも刑事になることで救われたのかなと。妹のような人間を生みたくないという思いは、奈良を動かす力になっている。だから毎日事件に向き合うのかなと思います」

　上司には堀部圭亮、仲間に坂田聡と事件を追う刑事陣は、喜劇畑に根を下ろした俳優が多い。

「メイク中に共演者の方としゃべりたいなと思うこともありましたが、奈良は軽さを捨てた人物。撮影の合間には染まらないように距離を置いていました。休憩中は、何度も同じ話をしていて、『それ、昨日も話してたろ』と何度も突っ込みたい気持ちになりました。撮影前はみなさんふざけてばかりいたので、『このメンバーでやる捜査会議に説得力あるのかな』と不安に思いましたが、シリアスな場面の撮影では、ぴったり緊張感を合わせてきて、すごいなと思いました」

　中でも相棒の今野浩喜とは、新しいことをしたくなる性分を抑えながら撮影に臨んだと話す。

「今野くんは昔、私が司会をしているライブに来てくれたことがあって。再会した時は照れくさかったですね。アイデアがどんどん出て来るけれど、探り探りで。今野くんを書類で殴る場面は、リハーサルでしていなかったこと。リアクションを信じてやれた部分はとても楽しかったです」

　口数が少なく、一途な奈良について、土方政人監督からは「昭和の刑事っぽく」と提案があったと語る。

「『大賛成です』とお伝えして。“あぶない”方面の刑事（デカ）の方々（柴田恭兵や、舘ひろし）を思い浮かべた部分はありました。捜査が行き詰まった時にたばこを吸ってみたり。取調室での詰問はシリアスに被疑者と向き合って。全5話を見直して、こんなことができる俳優になったのかと自分で驚きました。画面には『考えている役者』が映っています」

　充実した撮影だったが、撮影外では共演者と一緒にふざけ、撮影に戻るとシリアスな顔を見せたかったというムロ。「スタッフの方に『ムロさんって、オンオフの切り替えが凄いよね』と良い陰口をたたかれたかった」と肩をすくめていた。

□ムロツヨシ　1976年1月23日、神奈川県出身。1999年に作・演出・出演を務めたひとり舞台で活動を開始。2005年に映画「サマータイムマシン・ブルース」でスクリーンデビューした。映画「川っぺりムコリッタ」が9月16日にロードショー予定。168センチ、A型。

スタイリスト 森川雅代
ヘアメイク 池田真希