ファイトマネー全額寄付も YA-MANが社会貢献活動に力を注ぐワケ「夢を諦めないで欲しい」

誰でも頑張ればYA-MANになれる――。19日、東京ドームで開催された格闘技イベント「Yogibo presents THE MATCH 2022」で芦澤竜誠との唯一のオープンフィンガーグローブ(OFG)マッチを制したYA-MANが試合後にマイクした言葉だ。この男が見せるのは結果だけではない。行動でもファンを魅了する。そんなYA-MANのターニングポイントや中村寛戦、皇治戦後に生まれたプロ意識について話を聞いた。

“親近感”のある指標を強調するYA-MAN【写真:ENCOUNT編集部】
“親近感”のある指標を強調するYA-MAN【写真:ENCOUNT編集部】

現在6連勝中も「負けたらどうしよう」と不安だった過去

 誰でも頑張ればYA-MANになれる――。19日、東京ドームで開催された格闘技イベント「Yogibo presents THE MATCH 2022」で芦澤竜誠との唯一のオープンフィンガーグローブ(OFG)マッチを制したYA-MANが試合後にマイクした言葉だ。この男が見せるのは結果だけではない。行動でもファンを魅了する。そんなYA-MANのターニングポイントや中村寛戦、皇治戦後に生まれたプロ意識について話を聞いた。(取材・文=島田将斗)

 試合前から因縁のあった芦澤戦。ほぼガードなしの殴り合いで1R109秒の速さで試合を終わらせた。試合後にはノーサイドと水に流し、「誰でも頑張ればYA-MANにならなれる……。ってなりたくないかもしれないけど、努力すればここまで来れるんで、みなさん頑張ってください」と観客へメッセージを送った。

 YA-MANが劇的に変化したのは昨年大みそかの皇治戦後。自身も肌で感じていた。「街中で声をかけられることが多くなったり、サインを求められたり、何か今まではなかったことがあるようになったすね。なんかプロ意識をもっと持つようになった。常に俺は周りに見られてるんだって」とうなずく。

 現在6連勝中、もちろん平坦な道のりではなかった。夢は幼少期からずっと「お金持ちになること」だったが、とあるきっかけで目標は変わる。試合内容も一変した。

「身近な人が亡くなってしまったことがあって、ついこの間まで生きた人が、死ぬ……。『自分が死ぬときはどうなるんだろう』と考えるようになりました」

 哲学的な話ではない。素直に感じたことを口にする。「いろいろ考えて『死ぬときに絶対後悔したくないな』と。死ぬときに後悔しないように生きようと思ったんです。それが去年(2021年)の3月です」。

 3敗したら引退する――。プロの世界に飛び込んだ際に立てていた掟だ。“死”について考えていたときに、ちょうど3敗目を喫していた。

「そこから試合も変わった。その前までは『勝たないと、負けたらどうしよう』でした。気持ちが変化してからは『負けてもいいからもうとりあえず楽しもう』という思考になりました」

 21年の5月にRISEではOFGマッチが開催されることになる。これが運命的な出会いになった。「3敗したら引退って決めていたのに3敗して、身近な人も亡くなって、5月にRISEのオープンフィンガーグローブという大会が始まって、いろいろなことが重なって自分を出せるようになりました」と笑った。

 YA-MANなんか――。彼はいつもこう口にする。根底にあるのは「見てる人に元気を与えたい」というシンプルな気持ちだ。

「常に憧れの存在でいたい。みんなの指標になりたい。『YA-MANでもなれるんだったら俺でもなれるんじゃないか』って頑張る原動力みたいな。『YA-MANなんか夢に近づけてるのなら、俺でもいけんじゃね』とか何かそういう存在がいい。親近感のある指標ですよね」と目を輝かせる。

 スターではいけないのか。「なんか天心とかって遠いじゃないですか。『無理だわ。あんなの。あんなになるってもう才能だろう』って多分思っちゃう。“YA-MAN”は違うんですよね。それでみんなが頑張ろうと思えているのなら、それでいい」と白い歯をみせた。

快くサインをするYA-MAN【写真:ENCOUNT編集部】
快くサインをするYA-MAN【写真:ENCOUNT編集部】

ファイトマネーを全額寄付、子どもたちに伝えたいこととは

 2002年4月に認定NPO法人AAR Japan(難民を助ける会)と協力してスタートした「世界中の子どもたちの目を輝かせる」を目指した社会貢献プロジェクトであるピースブロジェクトにYA-MANが大みそかRIZINのファイトマネーを全額寄付した。“キングオブストリート”の心温まる行動には称賛の声が相次いでいた。

「シングルマザーとか孤児院などを支援しているプロジェクトなんです。一番は代表の加藤勉さんと話したときに、もうなんか本当に熱くて」といきさつを明かす。

 それだけではない。母子家庭で育った境遇も参加を後押しした。「自分も幼少期にそういう境遇で育ってきた。そういう子たちって結構、夢見るのを諦めちゃうんですよね。『いやお金ないから無理だし』『俺じゃ無理だ』『こんな環境じゃ無理だろう』みたいに」と自身の経験を踏まえながら遠くを見つめる。

 そう言いながら中学生時代を回顧した。「私立に行くか公立に行くかという話がありました。野球をやっていた僕は私立に行けば良い所までいけるかという状況でした」と説明した。

 どことなく悲しそうな顔をする。「でも、私立に行くとお金がかかる。やっぱりそこで母には申し訳ないけれど、気を遣ってしまいました。少なくともそういう思いをしている子たちはいっぱいいると思うんです」と熱くなる。

 経験したからこそ出る言葉はズシリと重たい。

「『お金がないから我慢しよう』。それで結果、夢があっても諦めてしまっている人は絶対いる。例えば進学せずに就職しようとかも同じです。でも、いろんな道があるじゃないですか。奨学金もある。だからこそ諦めないで欲しい。夢をかなえるために、いろんな選択肢があるので、どうやったらその夢をかなえられるかを考えてほしい」

 どうすれば子どもに伝わるのか。考えた結果、「まず自分ができることを」の思いで寄付を始めた。参加した「PEACE PROJECT」では実際に子どもと触れ合う機会がある。「子ども好きだけれど得意ではないっす」と照れくさそうに笑うが、真正面からぶつかった。

「ミットを持ったんです。子どもだからって子ども扱いをするのではなくて『絶対に頑張れば、上に行けるから成り上がれるから』と一人一人と話をしました」

 誰でもYA-MANになれる――。この言葉には続きがある。

「夢を簡単に諦めるんじゃなくて、YA-MANみたいになるにはどうすればいいかを考えてもらえたらうれしい」

 格闘技を通して夢を見せてくれるファイターはたくさんいる。この男は夢を与えるだけでない。考え方を、のし上がり方を身をもって示す。一味違う“プロ意識”に観衆は惹かれているのだろう。

トップページに戻る

あなたの“気になる”を教えてください