国公立大学の医学部医学科入試でダントツの成績を収めているのが愛知県の名門私立である東海中学・高校（名古屋市東区）だ。22年実施の入試では現役と浪人合わせ計123人の合格者を出した。2位のラ・サール学園（鹿児島県）、3位の東大寺学園（奈良県）にほぼダブルスコアの差をつける圧勝状態だ。もちろん、東海高校の生徒数は1学年400人を超えているため、卒業生数200人ほどのラ・サール、東大寺学園と単純比較はできないが、医学科進学において全国的にも高く評価されているのは確かだ。

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　東海学園は法然上人が開いた浄土宗によって設立され、生命尊重の仏教精神を基調としている。東海中・高校の公式ホームページの「進路」を開くと「東京大学や京都大学をはじめ、慶應義塾大学や早稲田大学など、国公立・私立ともに全国トップクラスの難関大学へ、毎年多くの先輩たちが合格しています」といった誇らしげな文章が目に飛び込む。ただ、22年度の主な大学の合格者数を見ると、北海道大学14、東北大学6、東京大学26、一橋大学4、東京工業大学5、名古屋大学60、名古屋市立大学22、岐阜大学19、三重大学10、京都大学36、大阪大学14、慶応義塾大学62、早稲田大学70など合格者数自体は記載されているものの、注目を集めている医学部医学科合格者数の内訳が見当たらない。名古屋大学には60人が合格したが、そのうちの何人が名大医学部医学科に合格したのかが判然としないのだ。

「東海高校が国公立大の医学部医学科に強いのは有名です。地元・名古屋大学の医学部医学科の定員は約100人。東海高生も定員とほぼ同じ100人ほどが名大医学科を受験するといいます。今年の合格者数は37人ですから定員の3分の1が東海高出身者によって占められているという計算になります。医師の子弟が多いこともありますが、これはあまりに行き過ぎだ、という声が学内から上がっているため、あえて詳しい内訳を公表していないのでしょう」（予備校講師）

　実際、東海高生の合格者数を見ると、愛知、岐阜、三重といった東海3県への集中度が高い。名古屋大医、岐阜大医、三重大医、名古屋市立医などが目立つ。中堅ランクの国公立大医学部でも難易度は東京大理科一類、二類合格レベルというから合格するのは簡単ではない。その一方で、地方の国公立大学医学部医学科の難易度は慶応大医学部には届かないようで、W合格した場合、慶応を選ぶケースが増えているという。特に最近は首都圏の医学部の難易度が高くなる傾向にある。東大理科三類に10人以上の合格者を出した超進学校の桜蔭（東京）や灘（兵庫）と違い、東海高は地方、とくに中部圏の国公立大医学部医学科を狙うことで国公立大医学部医学科合格者数ランキングで圧倒的な成績を残している、といえるかもしれない。

　愛知県出身の大学講師がこう言う。「愛知県の高校生の親世代は“名古屋大学志向”が根強く残っています。例えば、友人の子どもが東大に合格したら『すごいですね』と普通に感心しますが、名古屋大に合格すると『どえりゃーがね！　天才（てんしゃー）だがね！！』（翻訳：すごいですね。天才ですね）と驚き方がケタ外れです。“大いなる田舎”と呼ばれている名古屋ならではの現象です」。

　卒業生には予備校講師の林修（東大法学部）、「メルカリ」創業者の山田進太郎（早大教育学部）、NHK元エグゼクティブアナウンサーの三宅民夫(早大政経学部)、スタジオジブリ代表取締役プロデューサーの鈴木敏夫（慶大文学部）ら多彩な才能がズラリと並ぶ。医者志望が多いように見えても文系への進学者は意外に多い。“大いなる田舎”からの脱出を夢見る東海高生の中から第2、第3の“林修”が登場する可能性も期待できそうだ。