日本が世界に誇る「カニカマ」 “人工クラゲ”の失敗作から偶然誕生、知られざる歴史

6月22日は「かにの日」。かに座の最初の日が6月22日であること、50音で「か」が6番目、「に」が22番目に当たることが由来だが、本物のカニへ敬意を表して6月を除く毎月22日は「カニカマの日」とされている。実は、今年はカニカマ誕生50周年にあたる節目の年。今や世界中に広がるカニカマはどのようにして生まれたのか。1972年に世界初となるカニ風味かまぼこ「かにあし」を開発した水産加工メーカー「スギヨ」に聞いた。

1972年に発売された世界初となるカニ風味かまぼこ「かにあし」【写真:スギヨ提供】
1972年に発売された世界初となるカニ風味かまぼこ「かにあし」【写真:スギヨ提供】

前身は江戸時代創業の老舗水産加工メーカーが1972年に開発

 6月22日は「かにの日」。かに座の最初の日が6月22日であること、50音で「か」が6番目、「に」が22番目に当たることが由来だが、本物のカニへ敬意を表して6月を除く毎月22日は「カニカマの日」とされている。実は、今年はカニカマ誕生50周年にあたる節目の年。今や世界中に広がるカニカマはどのようにして生まれたのか。1972年に世界初となるカニ風味かまぼこ「かにあし」を開発した水産加工メーカー「スギヨ」に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

 石川・能登半島に本社を構えるスギヨが創業したのは、なんと江戸時代の1640年。1907年からちくわなどのかまぼこの生産を始め、戦後のビタミン不足の時代にはサメから採れるビタミン油をちくわに入れた「ビタミンちくわ」が大ヒットするなど、当時から開発者精神にあふれた会社だった。そんなスギヨで、世界初となるカニカマが誕生したのは1972年。実は、もともとカニ風味のかまぼこを作るつもりではなく、ある失敗から生まれた副産物だったという。

「カニカマ以前にもカラスミもどきの『唐千寿』など、さまざまなアイデア食品を開発していました。60年代に中国と国交関係が悪化し中華クラゲの供給が減少したことから、業界内から『人工クラゲを作ってほしい』と要望があり、開発を始めたのが後に社長となる杉野芳人専務と清田稔開発主任を中心とした開発チーム。人工クラゲは完成しましたが、しょうゆをかけると化学反応で食感が損なわれてしまうという致命的な欠点があり、商品化には至りませんでした」(スギヨ担当者)

 失敗作の人工クラゲだったが、束にして食べるとカニの繊維の食感に近いことを杉野専務が発見。水産加工メーカーの技術を応用すれば、カニの風味をつけることは難しくはなかった。かくして世界初となるカニ風味かまぼこ「かにあし」が誕生するが、売れ行きは芳しくなかったという。

「最初は問屋へ卸す時点で『刻んだかまぼこなんか誰が買うんだ』と相手にしてもらえなかったと聞きます。地道な営業で料理屋へのツテをたどり、板前さんに食べてもらったことで初めて可能性を認めていただけた。一軒だけ興味を示してくれた問屋を通じて築地に出すと、一気に人気に火がつきました」(スギヨ担当者)

第45回農林水産祭で天皇杯を受賞したスギヨの最高傑作「香り箱」【写真:スギヨ提供】
第45回農林水産祭で天皇杯を受賞したスギヨの最高傑作「香り箱」【写真:スギヨ提供】

アイデアを取られて悔しいという声も、「これはこれで良かった」

 一般家庭の食卓に並ぶようになってからも「カニだと思って買ったらカニじゃなかった」「分かりにくい、インチキだ」などのクレームが寄せられ、公正取引委員会からも指導が入り何度も商品名やパッケージの修正を繰り返した。また、製法特許は取れたものの当時は製品特許は一般的でなく、水産加工の技術を持った全国各地のかまぼこメーカーからは同様の商品が次々と発売された。

「社員から、アイデアを取られて悔しいという声が上がることもありましたが、これだけの潜在的な需要がある商品、一社だけではどうやっても供給が追いつきません。当時は練り物業界が衰退の一途をたどっていた時期で、カニカマは業界全体の希望の星でした。同業他社と切磋琢磨したことでクオリティーが向上した部分もありますし、これはこれで良かったというのが弊社の考えです」(スギヨ担当者)

 カップラーメン、レトルトカレーと並び「戦後の食品三大発明」と言われるカニカマ。今では「surimi(すりみ)」の名称で世界中で食べられている。一方で、第二のカニカマとなるべくアイデアかまぼこはなかなか生み出せていないのが現状だ。スギヨでは2016年にうなぎの蒲焼き風かまぼこ「うな蒲ちゃん」を発売。全国かまぼこ品評会では特別賞を受賞、絶滅が危惧されるうなぎの保護にもつながる代替食品として、毎年土用の丑の日に合わせてPRを続けている。

「30年以上前にエビを模したエビカマの開発に取り掛かり、見た目はそっくりの物ができましたが、当時の技術では味や食感を近づけることが難しく、商品化はしたものの、エビは養殖が盛んで比較的安価で手に入るため、あまり売り上げは伸びませんでした。『うな蒲ちゃん』はうなぎ特有の小骨がなく、小さいお子さんや高齢者施設でのおせちなどでご愛顧いただいております。今はうなぎに限らず、水産資源全体が高騰している時代。今後は練り物だけに捉われない商品を開発し、持続可能な食文化を守っていきたいと思っております」(スギヨ担当者)

 今年法人化60周年とカニカマ誕生50周年を記念し制作したショートムービー「カニカマ氏、語る。」は、アジア最大級の国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル&アジア2022」で企業部門にノミネートされた。人工クラゲからたまたま誕生したアイデア食品は、今日も世界の食卓を彩っている。

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