発達障がいの妹を持つセイン・カミュ、奇跡の出会いに鳥肌 「これ、僕の妹の絵ですよ!」

外国人タレントのセイン・カミュが理事を務める一般社団法人「障がい者自立推進機構」(パラリンアート)では、障がい者が作ったアート作品に企業が使用料を支払うことで、障がいがあっても賃金を得られる仕組み作りを目指している。社会保障に依存しない障がい者支援「パラリンアート」とはどういったものなのか。活動に共感するセインと代表創業者理事の松永昭弘氏に聞いた。

一般社団法人「障がい者自立推進機構」で理事を務めるセイン・カミュ【写真:ENCOUNT編集部】
一般社団法人「障がい者自立推進機構」で理事を務めるセイン・カミュ【写真:ENCOUNT編集部】

障がいのあるセインの妹が描いた絵が運命的な出会いを導く

 外国人タレントのセイン・カミュが理事を務める一般社団法人「障がい者自立推進機構」(パラリンアート)では、障がい者が作ったアート作品に企業が使用料を支払うことで、障がいがあっても賃金を得られる仕組み作りを目指している。社会保障に依存しない障がい者支援「パラリンアート」とはどういったものなのか。活動に共感するセインと代表創業者理事の松永昭弘氏に聞いた。(取材・文=佐藤佑輔)

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 松永氏がパラリンアートの構想を始めたのは16年ほど前。当時、人に感謝されつつ、景気に左右されない仕事として介護の事業を立ち上げるも、自治体の補助金頼りとなっている福祉業界の状況に限界も感じていた。ボランティアやチャリティーではなく、障がい者自身が継続的にお金を稼げる方法として考えたのが、障がい者が作った作品に企業が使用料を支払って利用するパラリンアートの仕組みだった。

 松永氏は事業に先立ち、平塚にある障がい者のアトリエ教室を訪問。2000点近い原画の中から気に入った4点の作品を購入し、自社の社長室に飾ることにした。それから約3年後、ある番組の取材でセインが松永氏の会社を訪問、社長室に飾られていた4枚の絵のうち、3枚に奇妙な親近感を覚えたという。

「どこかで見たことあるような絵だなと思って、『作者は誰ですか?』と聞いたんです。松永さんが『クリスティーヌだったかな?』と言ってる横で、絵をめくると裏に『ジャスティーン』と名前があった。鳥肌が立ちました。『これ、僕の妹の絵ですよ!』と」(セイン)

 実は、セインには「池田ジャスティーン(JCI)」という名前で活動する、7つ下の発達障がいの妹がいた。ジャスティーンさんは松永氏が絵を購入した平塚のアトリエ教室に通っており、その作品がたまたま松永氏の目に留まったのだという。絵が導いた運命的な出会いにより、セインと松永氏はあっという間に意気投合した。

「妹がいることも、自閉症があることも公表していなかったし、松永さんの会社に番組の取材で行くことになったのもまったくの偶然。出会うべくして出会ったんだと思いましたね。僕もタレントとして多少は知名度もあるので、プロモーションのお手伝いをしたりイベントの司会をしたり。妹のジャスティーンもアーティストとして登録していて、ちょこちょこお仕事をいただいています」(セイン)

年間6000人近くの障がい者が参加、そのうち約730人がアーティストとして登録

 現在は年間6000人近くの障がい者がパラリンアートに参加、そのうち約730人がアーティストとして登録しており、定期的に絵などの作品を投稿している。作品の原画や著作権はアーティスト側にあり、企業はサイト内から気に入った作品やアーティストをチェック、使用料を支払うことでデータの商業利用が可能となる。パラリンアートの現状について、松永氏はこう語る。

「もちろん、継続して描き続けられなかったり、企業から選んでもらえないという理由で辞めていく人もいます。コンペでグランプリを受賞した人が必ず登録するというわけでもない。それでも障がい者が仕事や賃金を得たり、自分に自信を持つためのきっかけにはなっていると思います。誤解してほしくないのが、パラリンアートの活動では企業に支援のお願いは一切していません。彼らの作品を見て、プロの仕事と評価した上での対価として使用料を払ってもらいたい。あえてビジネス色を出しています」(松永氏)

 障がい者の雇用をめぐる議論は複雑だ。「なぜ障がい者だからと区別するのか」「アートを名乗るのなら、障がいでくくらず、作品のみを評価すべきだ」という意見もある。

「そういうのなら、実際に継続的な雇用を生み出す仕組みを作ってみてほしい。アートの世界で活躍できるのは健常者であっても一握り。ましてや障がい者であれば、光が当たらなければ出てこられないのが現実です。パラリンアートの中には大企業とのコラボ商品もありますが、これは障がいという特性がなければ成立しないことは事実です。きれいごとでなく、多様性の時代、一つの個性として障がいがあることを売りにしてもいいと私は思います。そしてそのパラリンアートという枠組みの中から、障がい者も健常者も関係ない、本当に飛び抜けた才能が出てくればいいと思っています」(松永氏)

 セインも、パラリンアートの魅力はその独創性にあると口をそろえる。

「アールブリュット、『生の芸術』というんですが、美術や芸術について何も教わっていないからこそ、見たこともない発想や色使いが生まれてくる。例えるなら、習字を半紙の中に収めて書こうという考えがない方もいます。何にも触れていないからこその無限の可能性が魅力だと思います」

 まだまだ進んでいるとは言い難い障がい者の社会進出。“奇跡の出会い”から始まったセインと松永氏の取り組みは実を結ぶか。

次のページへ (2/2) 【写真】セインの妹で知的障がいを持つJCIさんが描いたアート作品
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