“教育”に進化するeスポーツ 強豪・クラーク記念国際高で取り戻した公務員の夢

吉成健太朗さんは、病院内でクラーク国際生と対戦
吉成健太朗さんは、病院内でクラーク国際生と対戦

ユニバーサルな学習環境への理解が、生徒・保護者に徐々に浸透

 3年前の開講から卒業まで一貫して、笹原教諭が鬼島さんら生徒たちに説いたのは、“eスポーツに向かう心構え”だった。「クラーク国際は通信制高校ですが、『eスポーツコース』は、国内初の週5日通学するコースで、僕らの取り組みが、通信制、全日制を問わず、後から続く学校にとってのモデルケースになります。eスポーツという競技が発展するのも、衰退するのも僕ら次第という思いはありました」と笹原教諭は振り返る。「eスポーツコースが学校全体に認められるように、普段から心がけて行動せよ」。「ひたむきに努力を重ねること」など、ゲームの腕前の向上に加え、遅刻・欠席、挨拶、言葉遣いなど、生活面を重視した言葉を、繰り返し投げかけた。

“eスポーツ”といえば体は良いが、中身は“オンラインで行うゲーム”にすぎない。そんな印象が大勢を占める時代だったからこそ、イメージを払拭する、日々の行動規律を求めた。2年生で瞑想、3年生では筋力トレーニングを授業に取り入れるなど、eスポーツそのものを続けているだけでは難しい精神面や肉体面の成長を、他のことで補う取り組みも施した。

 eスポーツの授業で採用するゲームは、「リーグ・オブ・レジェンド(LoL)」に限定し、その他は部活動として課外活動で行うことにした。理由は、役割の違う5人がチームを組み、それぞれが選んだキャラクターの特性を活かした戦術を練って、敵陣にある「ネクサス」という目標物を破壊する内容から、生徒たちの以下のような力を引き出せると考えたからだ。

(1)仲間と協力して物事にあたる“協働性”
(2)戦略を練る“思考力”
(3)キャラクターを、状況に応じて的確に動かす“判断力”
(4)老若男女、国籍、能力を問わず、さまざまなプレーヤーと対戦できる“多様性”

 クラーク記念国際高校の系列校である専修学校クラーク高等学院札幌大通校のeスポーツコースでは、昨年8月と11月に、国立病院機構北海道医療センター(札幌)に入所する指定難病・筋ジストロフィーの患者とLoLで交流。初対戦だった8月の大敗を糧に戦略を練り直し、11月の2回目で雪辱を果たした。他の学校や社会人、プロ選手との交流戦や公式戦参加を通して生徒は技術力を磨くとともに、コミュニケーションの輪も広がった。

 eスポーツコースへの入学者は、昨年度の7人から今年度28人と大幅に増加。同校の中野陽介校長は「性別も身体状況も、国籍にもこだわることなくコミュニケーションをとる中で多様性を学び、『どうしたら次の試合で勝てるか』をチームで考える中で、協働性や思考力が伸びます。教育としてのeスポーツの価値が、生徒・保護者に理解され始めていることが、今年の入学者の増加にもつながっているように思います」という。

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