“教育”に進化するeスポーツ 強豪・クラーク記念国際高で取り戻した公務員の夢

「大学卒業後の夢は、大好きな横浜市の公務員になること」と話す鬼島さん【写真:中島洋尚】
「大学卒業後の夢は、大好きな横浜市の公務員になること」と話す鬼島さん【写真:中島洋尚】

eスポーツで取り戻した「公務員」になる夢

 そんな鬼島さんが今、大学で目指すのは、「大好きな横浜に住む皆さんに貢献できる地方公務員」だという。「(eスポーツコースに)すでに“プロ目前”という後輩がいます。彼を見ていると、今後も僕が競技者として続けていくのは非常に難しいと感じますね。小学校時代からの夢だった公務員を目指そうと思い、公務員試験の合格プログラムがある法学部に決めました」と、進路選択の経緯を話す。「ただ、このeスポーツコースがなければ、学校にすら行けなかったと思いますし、公務員になる夢を思い出すこともなかったかもしれません。この学校、コース、出会った先生、講師の皆様には感謝しかありません。ここでチューターをさせていただくのは、恩返しの意味合いも大きいですね」と続けた。

 鬼島さんが、中学校に通った期間は、3年間のうち約半分だった。「小学校のときはサッカーのクラブチームにも入っていて、学校から(自宅に)戻っても、カバンを投げて外に出て行ってしまうような、ワンパク元気っ子でした」。学校帰りに市役所に寄り、窓口で市民に対応する母の姿を見て、「僕も公務員になりたい」と憧れた。中学校でも入学当初はバスケットボール部に入部し、一時は小学校の延長のような日々を送った。しかし半年もたつと、自宅にこもる生活が始まった。「特にいじめがあったとか、そんな理由ではありませんでした。学校の授業が難しくなったりとか、どうしても興味をそそられなかったりとか……」。

 オンラインゲームに没頭する時間が長くなり、学校は遠のいた。中2のときには、父の仕事の関係で人口約300人という太平洋上の小島・利島(としま、東京都)に生活環境が変わり、ゲーム時間を減らした時期もあったが、登校できたのは半分ほど。1年で横浜の自宅に戻ると、午前10時に起き、共働きの両親が帰宅して夕食の準備が整う夜7時まで、たっぷり9時間もゲームを続ける元の生活に戻った。気がつくと進路先を選ぶ時期としてはかなり遅い、中学3年の冬になっていた。「当時は『世の中で一番楽しいのはゲーム。このまま人生が終わればいい』って思っていました」と振り返る。

 そんなときに見た夢が、突然の転機となった。高校の教室で、休み時間に友人とイヤホンを片方ずつ分け合って、流行りの青春ソングを聴いたり、談笑したりする自分の姿が、そこにあった。「ゲーム自体は楽しかったんですけど、同じ毎日ばかりで、僕なりに『このままじゃダメだ』という気持ちがあったのかもしれませんね。ただ、キラキラした、アニメや漫画に出てくる高校生活ではなく、イメージは普通のどこにでもありそうな高校生活でした」。

 夢を見たその日、両親に「俺、高校に行きたい」「受験したい」と宣言。まずはすぐに塾を決めた。そして次に学校を探すと、クラーク国際が翌年の4月から開講する“eスポーツコース”が網にかかった。『この学校はどうやら授業でゲームができるらしいぞ。これなら自分でも卒業できるんじゃないか』。約1か月間、塾と自宅で久々の勉強と向き合い、入学を決めた。

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