【週末は女子プロレス#50】電撃退団→実家で介護の仕事→復帰 長与千種に憧れた21歳狐伯の運命を左右した瞬間
「復帰戦はホントに楽しかった」も「まだまだ満足できない」
その後、16歳でマーベラスに入門。中学の部活でバスケットボールをしていたが「弱小チームで」と苦笑するほど、特別な成果を上げたわけではなかった。ただ、身体を動かすことは大好きで、入門して初めて、隠れていた才能が飛び出した。長与の指導だけに、練習が女子プロ界でも特に厳しいことは明らかなのだが、地獄の特訓もそれほど苦にはならなかったというから驚きだ。
「プロレスラーになりたい気持ちがホントに強かったので、しんどいとは思ったけれど、これを頑張ったらプロレスラーになれるんだ、自分のやりたいことができるんだと思ったので、そんなに苦しいというのはなかったですね」
18年8・8後楽園でデビューを果たすと、彼女のバネ、キレッキレの動きは、ほかの新人選手と比べ群を抜いていた。19年6月にはセンダイガールズのジュニア王座を奪取し初戴冠、将来を嘱望されていたが、昨年8・20後楽園を最後に、突然姿を消してしまう。
そして所属団体を変え、待望のカムバック。復帰戦から16日後には野崎渚のレジーナ王座に挑戦するチャンスも得た。団体最高峰のベルトに挑むのは旧姓・広田さくらに挑んだ21年1・1新木場以来2度目。このときもwaveだった。それだけ期待値が高い証拠でもある。
「復帰戦はホントに楽しかったです。相手の鈴季すずは同期で、自分が勝手に一方的にムカついているだけなんですけど(苦笑)、試合をしながら、いま自分は幸せだなって思いました。ただ、(復帰から何試合かしても)まだ思ったように身体が動かなくて、まだまだ満足できないです」
旧リングネーム神童が「神の童」を意味するほど、本来の動きは天才的。そこには長与のもとで学んだ基礎体力が根底にある。今後は彼女自身のプロデュース能力が問われ、ブランクを埋めた上でのさらなる成長が期待される。開催中のシングルリーグ戦「CATCH THE WAVE2022」が、狐伯の現在地を知るひとつの目安となりそうだ。
選手の個性を生かせるように毎年ユニークなブロック分けがされる恒例の“波女”決定リーグ戦。今年は「蹴撃」「ハードコア」「コミカル」「剛腕」「Future(フューチャー)」の5ブロック制でおこなわれており、初出場の狐伯は若手選手が覇を競う「フューチャーブロック」にエントリーされた。リーグ戦では各ブロックの勝者と敗者復活戦で生き残った合計8選手が決勝リーグに進出、7・17後楽園での決勝戦で、今年の“波女”が決定する。
「いま自分が一番意識する相手って同期、同じ年にデビューしてる人たちなんですね。たとえば鈴季すず、川畑梨瑚。カラーズの網倉理奈選手も。同期がけっこう身近にいるし、(鈴季、川畑とは)リーグ戦で闘わせていただくチャンスもあるので、まずは同期の中から飛び出していきたいなと思ってます」
復帰戦で敗れた鈴季とは、5・5後楽園での公式リーグ戦で時間切れ引き分け。川畑とは5・29ポスト・ディ・アミスタッドで対戦する。また、「リーグ戦での決着がついていない」鈴季とはルールからリーグ戦内で再戦する可能性もゼロではないだけに、このライバル関係もさらに激化していくのではないかと期待される(5・18新木場終了時点で、狐伯は1勝1敗1分け)。
「自分のペースじゃなくてギアチェンジして、レベルアップさせていきたいです。自分の中で神童ミコトは優等生だったんですよ。でも、狐伯となったからには、これからもっともっと感情を出していきたいと思ってます」
その先に見据えるwave最高峰王座レジーナへの再挑戦。まだ21歳になったばかりの狐伯には、未来しかないのである。