ドライブ・マイ・カー、ハルキスト記者が徹底分析 原作“いいとこどり”と練り上げた人間ドラマ

映画「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)が、今年の第94回アカデミー賞を沸かせた。国際長編映画賞受賞の快挙を達成。村上春樹氏の短編小説集「女のいない男たち」(文藝春秋)から「ドライブ・マイ・カー」を原作に、同書収録「シェエラザード」「木野」の3篇のエッセンスを巧みに織り交ぜ、“オリジナル”とも言える映画のストーリーが展開する。映画と原作を比較すると、どう異なり、どのように紡がれているのか。ハルキストの記者がちょっとした独自分析をしてみた。

映画「ドライブ・マイ・カー」は赤のサーブ車がポイントの1つだ【写真:(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会】
映画「ドライブ・マイ・カー」は赤のサーブ車がポイントの1つだ【写真:(C)2021『ドライブ・マイ・カー』製作委員会】

第94回アカデミー賞で4部門ノミネート 村上春樹氏「女のいない男たち」からの3篇

 映画「ドライブ・マイ・カー」(濱口竜介監督)が、今年の第94回アカデミー賞を沸かせた。国際長編映画賞受賞の快挙を達成。村上春樹氏の短編小説集「女のいない男たち」(文藝春秋)から「ドライブ・マイ・カー」を原作に、同書収録「シェエラザード」「木野」の3篇のエッセンスを巧みに織り交ぜ、“オリジナル”とも言える映画のストーリーが展開する。映画と原作を比較すると、どう異なり、どのように紡がれているのか。ハルキストの記者がちょっとした独自分析をしてみた。(吉原知也)

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 総論から言えば、いい意味で原作の設定を「いいとこどり」の作品だ。序盤からぐっと見入ってしまい、約3時間の長さを感じさせない。アカデミー賞には、作品賞、監督賞(濱口監督)、脚色賞(濱口監督、大江崇允)、国際長編映画賞(旧・外国語映画賞)の4部門ノミネート。日本映画史上初となる作品賞だけでなく、日本映画初となる脚色賞の候補入りということ自体が、ストーリー構成の妙が評価された証左と言えるのではないか。

(※以下、映画や原作・短編小説の内容に関する記述があります)

 映画は昨年8月から全国でロングラン上映中(PG-12指定)だ。原作は、公式ポスターで紹介されている「女のいない男たち」の文春文庫版から読み取った。

 妻を失い喪失感を抱えながら生きる舞台俳優で演出家の家福悠介(西島秀俊)が、愛車サーブで向かった広島で渡利みさき(三浦透子)と出会い、目を背けていたあることに気づかされていくさまを描く。家福の妻・音を霧島れいか、家福が演出する劇のオーディションを受ける若手俳優・高槻耕史役を岡田将生が演じている。

 まず、冒頭シーンでベッドの上で音が家福にとうとうと語り出す「初恋の相手の家に空き巣に入る女子高生の話」は、のっけから「シェエラザード」からの“引用”だ。映画では、音は自分で話した内容を覚えていないようで、サーブを運転中の家福の口から、音からの伝聞ストーリーとして語られる。話の続きについて、2人が気になっている様子が描かれている。この「続き」は映画のポイントの1つでもある。

 音の話は、小説では、登場人物で「シェエラザード」と呼ばれる主婦が、ベッドの中で主人公に語る不思議な話に基づいている。もう1つの「前世」に関する話も出てくる。「シェエラザード」の要素は、音の独特な雰囲気や怪しい魅力を引き立てている。

次のページへ (2/3) 原作は「黄色のサーブ900コンバーティブル」が描かれている
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