忌野清志郎が残した日本語「イマジン」 作曲家が歌詞から読み解く“平和への祈り”

時が流れても風化しない優れた歌詞とは

 ジョン・レノン世紀の名曲「イマジン」(71年)では「天国も地獄もなく、ただ空がある」「みんなが平和に暮らす世界」を「Imagine=想像してごらん」と歌われる。ジョンは、聴き手ひとりひとりに想像させ、考えさせる。想像した先の世界は、それぞれの心の中にだけある。この歌を聴くたび、歌うたびに「みんなが平和に暮らす世界」を想像することができる。「ただ、今日を生きるだけ」のシンプルで美しい世界を。

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 清志郎率いるRCサクセションがアルバム「COVERS」をリリースしたのは88年。このアルバムは欧米のフォークやロックに清志郎が日本語で歌詞をつけたものだが、原詞に忠実なものはほとんどなく、核や原発の問題を、清志郎のユーモアに包み表現した内容も含まれていた。所属レコード会社はこのアルバムを「素晴らしすぎて発売できません」と新聞広告を打ち、発売中止にした。

 結局、それら一連の騒動が大きく報じられ、別のレコード会社からリリースを果たすと、オリコン1位を獲得する大ヒットアルバムとなったのは皮肉だった。

 その「COVERS」ラストに収められているのが「イマジン」の日本語バージョンだ。原詞を忠実に、美しい日本語に置き換えて歌われている。

 しかし不思議なのだ。エンディングのコーラス部分に、原曲にないメロディーと歌詞が付け加えられている。いやそればかりか、その「不思議なフレーズ」は何度も何度も、感動的とも言えるほどに、リフレインされていく。

「僕らは薄着で笑っちゃう」

 あまりに唐突なこのフレーズ、筆者はずっと長い間、意味をはかりかねていたが、先日聴き返し、ふと思い当たった。歌われている「薄着の僕ら」とは「核」を持たない、我々日本人のことではないか。清志郎は非核の思いをこのフレーズに込めていたのではないか、と。考えすぎだろうか?

 清志郎はこう歌う。

「僕らは薄着で笑っちゃう 夢かも知れない だけどひとりじゃない」

 みなさんはどうお考えだろう?

 優れたポップミュージックの歌詞とは、時が流れても風化しないものだ。そして歌詞とは「詩」という表現でもある。それは具体的な「何か」を示すものではない。それは最終的に、我々聴き手がその「詩」から意味を読み取り、感じることで「作品」として完成するのである。

 しかし、今から何十年も前に作られた「?」を問いかけた名曲たちが、21世紀になって何年たった今もリアルに響いてしまうとは。

 何度同じことを繰り返せば、気がつくのだろう? 答えは風に吹かれて、そこにある。もう目を背けることはできない。

□成瀬英樹(なるせ・ひでき)作詞・作曲家。1968年、兵庫県出身。92年、4人組バンド「FOUR TRIPS」結成。97年、TBS系ドラマ「友達の恋人」(瀬戸朝香・桜井幸子主演)の主題歌「WONDER」でデビュー。2006年、AAA「Shalala キボウの歌」で作曲家デビュー。AKB48提供「BINGO!」「ひこうき雲」、前田敦子「君は僕だ」「タイムマシンなんていらない」などがトップ5ヒット。16年、AKB48のシングル「君はメロディー」でオリコン年間チャート2位を記録するミリオンセラーを達成。21年、乃木坂46「全部 夢のまま」を作曲。

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