葉加瀬太郎の心を動かしたスタッフの気迫 SPドラマ「津田梅子」の劇中音楽誕生秘話

作曲家の羽毛田丈史(左)とレコーディング【写真:(C)HATS】
作曲家の羽毛田丈史(左)とレコーディング【写真:(C)HATS】

サントラ作りに対する葉加瀬のこだわり

 曲の骨格が出来上がったところで作業は葉加瀬の右腕でもある作曲家の羽毛田丈史へと移り、オーケストラのアレンジが完成した。そこで羽毛田は「ここ数年の葉加瀬の作品の中で1番の出来だ」と彼に伝えてきたという。

葉加瀬「僕が最も信頼する人から褒めていただけるなんて、そりゃうれしかったですよ。この曲の根幹にあるリズムは、レナード・バーンスタインの『ウェスト・サイド物語』に出てくる曲『トゥナイト』です。“タターン・タ・タターン・タ”っていうリズムとメロディーが混ざりあって少女のワクワクドキドキ感を作りました」

 メインテーマに加えてもう1曲、物語の核となる梅子のテーマ「One step forward」。メインテーマとは相対する内省的で哀愁が漂うメロディーが印象的だ。

葉加瀬「サントラには軸になる2曲が必要になるんです。もちろん物理的に派手なものと柔らかいものっていう分け方もあるし、主観と客観、あるいは俯瞰と凝視だったり。その両方がないと物語は成立しないわけです。ですからメインテーマとは真逆の梅子の心の中を描いています。人は夢や希望があるだけ不安や寂しさもあるわけで。そういう心の震えみたいなものを描いています」

 バイオリンとオーボエが奏でるそれぞれのメインテーマは梅子の主観と客観という対比を表現しているようにも聞こえてくる。

葉加瀬「曲の後半のオーボエでメロディーを取る8小節というのは、他の友人の声だったり、運命だったり、梅子が周りから諭される。それによって梅子の気付きにもつながるそんな構成です」

 こうして完成したサントラだが、葉加瀬は一切作品映像を見ずに台本とイメージで作り上げたということ。完成映像も見ていないという。

葉加瀬「これは『餅は餅屋』ですから。それぞれのプロフェッショナルが集まって作っている中で僕は曲を完成させるという役割までですから。後の仕事は選曲家の皆さんの仕事になるわけでね。もうその方にすべてを委ねて。どうぞどうぞと(笑)」

 完成した作品に内山氏は次のような感想を述べた。

内山氏「劇中音楽というより、音楽にドラマが引っ張られるのではないかと不安になるほど(笑)強い。グローバル感があり、6歳で初めて海を渡っていく少女の未来を信じたくなる音楽です。津田梅子に勇気を与えてくれてありがとうございました」

 完成した作品を「津田梅子の勇気」と例えた内山氏の言葉に葉加瀬は「1番の褒め言葉です」と感謝し、サントラ作品に対するこだわりを次のように語った。

葉加瀬「僕は映画のタイトルと口ずさめるメロディーが一致している作品が好きなんです。そういう音楽しか描きたくない。やっぱり良い映画ってどれもパッと思い出すメロディーがあってニーノ・ロータやエンニオ・モリコーネ、ヘンリー・マンシーニといった僕が尊敬してやまない偉大な作曲家はみんなそう。僕はそれさえあれば満足でね、いつかモリコーネさんみたいな作品が1曲でも書けたらもう死んでもいいなって思ってます」

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