ベテラン女優・黒沢あすか、あえて自分の強みを封印 “何もしないこと”で新発見
11歳のときにデビュー、来年は女優生活40年「一人では生きていけないんだ」
自身の強みであった裸を封印。あえて“何もしないこと”を心がけた。「エキセントリックな役が得意というのは、私の長所でもあり、短所でもあると思っていたんです。涙が出やすく、感情が高ぶりやすい。それが自分の技術としてお見せできたんですけども、そういう表現方法ではない部分で、挑戦できたと思います」。
しかし、「何もしないこと」は思った以上に難しかった。「今までは、カメラを向けてもらったら、その役柄に合わせてしっかり爪痕を残すことが必要な役が多かったので。やっぱり自然とそうなってしまうんですね。それは、自分がこだわってきたんだと再認識しました。今までの自分を否定しないためにも、技術をちりばめていけば、今までとは違ったアプローチになるんじゃないかな、と思いながら演じました」。
黒沢は11歳のときにデビューし、来年は女優生活40年を迎える。これまでを振り返り、「1人では生きていけないんだ、と思いましたね。現場では、たくさんの監督さんとの出会いがあって、終わったときには、それぞれ言葉をかけてくださり、自分自身、新しい発見があったなという感動の繰り返しです。それが次への原動力になるんです」。
こんな充実感を味わえたのは、マーティン・スコセッシ監督が遠藤周作の同名小説を映画化した「沈黙-サイレンス-」(17年)以来だという。黒沢は、「岡田三右衛門」に改名した、主演セバスチャン・ロドリゴ神父(アンドリュー・ガーフィールド)の妻を演じた。セリフは一切ないが、その秘めた感情を所作ですべてを見せる。
「スコセッシ監督は『六月の蛇』がお好きだったそうで、映画を見てから現場にいらっしゃってくださったんです。当時、NHKのBS時代劇にも出演していたこともあって、所作を習っていた幸運もあったんですね。監督には、武家出身と公家出身で所作が違うと説明すると、『何も言うことはないから、見せて欲しい』と言ってくださった。監督からは『あなたは黙っていても、目から顔から言葉が聞こえてくる』との言葉を頂くことができ、自信になりました」と語る。
プライベートでは、特殊メイクアーティストで映画監督の梅沢壮一氏がパートナー。3児(22歳、16歳、14歳の息子)の母でもある。「息子も大きくなったので、以前のように家事をしながらセリフを覚えることもなくなりました。梅沢も映画を見てくれて、褒めてくれました。その年齢で主演できるのはなかなかないこと。自分では足りないと考えているかもしれないけど、あなた(黒沢)を目標としている人もいる。いろんなことに感謝して、余計なことを考えず、やりなさい、と」。
数々の名監督や夫の言葉を胸に、さまざまな女を演じてきた黒沢。本作では「これまでの集大成といっても過言ではない」と自負する。同時に新境地も切り開いた。
□黒沢あすか(くろさわ・あすか)1971年12月22日、神奈川県出身。90年に「ほしをつぐもの」で映画デビュー。2003年公開の「六月の蛇」で第23回ポルト国際映画祭最優秀主演女優賞、第13回東京スポーツ映画大賞主演女優賞を受賞。11年に「冷たい熱帯魚」で第33回ヨコハマ映画祭助演女優賞を受賞。19年に「積むさおり」でサンディエゴ「HORRIBLE IMAGININGS FILM FESTIVAL 2019」短編部門 最優秀主演女優賞を受賞。主な出演作に、「嫌われ松子の一生」(06)、「ヒミズ」(12)、「渇き。」(14、「沈黙-サイレンス-」(17)、「昼顔」(17)、「楽園」(19)、「リスタート」(21)などがある。今春公開予定「恋い焦れ歌え」(熊坂出監督)が控えている。
ヘアメイク:奥川哲也(dynamic)