韓国出版プロデューサーが語る日本漫画の近未来 「作品性とスマホ向け 二極化する」

韓国ドラマ「地獄が呼んでいる」の原作となった「地獄」の第2巻【写真:(C)futabasha】
韓国ドラマ「地獄が呼んでいる」の原作となった「地獄」の第2巻【写真:(C)futabasha】

「韓国の漫画家の中で日本の漫画の影響を受けていない、という人は100%いません」

――日本では韓国NAVER系のLINEが「LINEマンガ」を事業展開しています。

「LINEマンガでランキングの上位に入っている作品の多くが韓国で制作されたWEBTOONです。韓国と日本ではストーリーが同じですが、日本にローカライゼーションするため登場人物は日本風の名前に変え、擬態語や擬音語も日本語に翻訳しています。韓国のコミックの世界観は日本の作品とは一味違うためかえって人気を集めているのかもしれません」

――LINEマンガの多くの韓国作品が設定を日本に変えているわけですが、双葉社刊行の「地獄」はオリジナルに近いですね。

「そうです。コミックの登場人物は韓国語をそのまま日本語読みにしています。例えば新真理の会の議長の名前は日本人風に変えるのではなく『チョン・ジンス』としていますし、地名も『ハプソン駅』と韓国語読みにしています。柱に書かれた韓国語も日本語に修正することはせず、そのまま掲載しています。理不尽な社会が深刻化するなか人間を超越した存在である神の登場と死の宣告によって社会と人々はどうなるのか、といったところがこの作品の大きなテーマだと思いますので、その世界観を大切にしたかったことと、Netflixでこのドラマを見た視聴者が単行本にも興味を持っていただけるのでは、と考えてオリジナル通りの出版を進めました」

――スマホユーザー向けに特化した韓国の漫画は縦スクロール、ほぼ原色という特徴があります。

「韓国の漫画家の中で日本の漫画の影響を受けていない、という人は100%いません。誰もが日本の漫画やアニメをたくさん見ているはずです。しかし、ウェブトゥーンは韓国独特のレイアウトで、紙に印刷された日本の人気マンガとも違います。縦スクロールで読み進んでいくわけですから映画のカメラレンズをのぞいて見るような感覚でしょうか。日本のマンガと違って細かい背景はあまり描かず、登場人物にクローズアップしています。シンプルに見えますが、実はストーリー、ネーム入れ、彩色などをチームの分業で進めるなど複雑な工程が必要です。最近、日本のWEB向け漫画でもこのような分業体制が増えてきましたが、韓国はさらに先に進んでいます。韓国の大手ポータルのカカオが日本で展開するピッコマとLINEマンガを合わせると電子マンガサービスの日本国内シェアは両社で9割近いのではないでしょうか」

――今後、ウェブトゥーンはどのような広がりを見せていきそうですか。

「日本の漫画は素材の多様性と作品性に優れていて背景描写や表現が繊細で丁寧です。しかし、それをそのままスマホで読むとなると文字が小さくなり過ぎて読み取れないおそれがあります。韓国のマンガのような大胆かつシンプルな表現がグローバルな人気を集めていますし、アメリカやアジア諸国では特に好まれる傾向があります。ウェブトゥーンにも対応できるよう、作品の表現方法や制作工程などをドラスチックに変えていかないと日本のマンガのガラパゴス化ということが起こるかも知れません。今後、日本の漫画は二極化していくのではないでしょうか。1つは従来のやり方を守って作品性をとことん追求していく作品、もう1つはスマホユーザーに向けたウェブトゥーンに寄せていく作品。コミックの単行本は1冊650円ほどであるのに対し、ウェブトゥーンは1話数十円から数百円という世界。読者の可処分所得が増えない中、若い読者が割安なウェブトゥーンに流れていくのは自然な流れだと思います」

□尹勝鏞(ユン・スンヨン)1969年、韓国・ソウル生まれ。1993年に来日。日本大学大学院映像芸術専攻(修士)。「RUSH!」(2001)、「力道山」(04)など多数の映画製作現場にスタッフとして参加。「殺人の追憶」、「私の頭の中の消しゴム」などを製作したSIDUS(サイダス)、CJエンターテイメントで多数の映画のプロデュース、配給に携わる。現在は双葉社ライツ企画部で映像化業務を担当。

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