平岩康佑、局アナ辞めてeスポーツの世界に転身した理由「絶対に逃したくなかった」
緻密な準備が支える実況力「資料は私たちにとって、命と言えるほど大事なもの」
キャスターとしての盛り上げ方は従来のスポーツと「ほとんど一緒」と明かす平岩氏。培ってきたノウハウとスキルを生かし、eスポーツシーンを伝えている。
「日本だとゲームに対するイメージがあまり良くない時期が長かったので、そこを覆してもらえるように、いろいろと考えてきました。ただ、実際に試合を実況するとなったら、選手たちのことをストレートに伝えるほうがいい。取材できるなら選手たちの人となりを、そうした時間やタイミングがなければ、プレイの中で見せる性格――例えばアグレッシブで勇気がある、どんなときでも冷静――などをしっかり伝えるようにしています。ゲームの技術面だけでは分からない人も多いですし、誰もが熱狂できるような状況にはしたいと思っています」
大事にしているのは、選手たちのバックグラウンドをしっかり伝えることだ。
「高校野球で強く感じていたことでもあるのですが、上手い野球を見たいなら東京ドームにプロ野球を見に行く。そうではなく、炎天下で毎日約7万人、トータル40万人以上の人たちが全然知らない高校生を見にいくのは、彼らの野球に対する姿勢があるからこそなんです。9点差が付いた9回裏でも必死に、泥だらけになって球を追いかける姿や、一塁にヘッドスライディングする姿。そういうひたむきさを見にきている。諦めない姿や、それが勝利に結び付いたときの姿が魅力的だと感じて見ていて、そこをなるべく伝えてあげるのは大事な仕事だと思っています」
実際にeスポーツ中継で平岩氏の実況を聞けば、いかに丹念に選手たちや競技について調べ、伝えているのかが分かる。緻密な準備が、その実況を支えている。
「準備にはすごく時間がかかります。正直、本番になってからできることはそんなにないんです。試合が始まればいつもどおりやるだけですから。準備段階の資料はすごく大事にしていて、『この選手は前回、準決勝で負けている』とか、『決勝で悔しい思いをしている』とか、そういう情報があると全然違ってきます。例えば『前回は決勝戦で敗れてしまいましたが、2年ぶりに決勝戦に戻ってきました。そこでどういうプレイを見せてくれるのか』『2年越しの思い、忘れ物を取りにきた』という話もできます。それを全選手分調べて、『Fortnite』なら100人、『Apex Legends』なら60人です。
確かに限界はありますが、『STAGE:0』という高校生大会は、高校生がいろいろな覚悟で出てきていますし、全員分すべて調べています。学年が1年生と3年生の組み合わせなら、最後の大会になる3年生を、1年生が支えるという構図になる。1人やられて1人が蘇生しているときに、『最後の大会の3年生を1年生が起こします』という実況ができるかどうかはすごく大事です。年齢、出身地……あとは2人が幼稚園から一緒の幼なじみ、卒業後は別々になることが決まっているなら、応援してくれる方はすごく増えます。資料は私たちにとって、命と言えるほど大事なものですね。準備にすごく時間がかかるんですが、それが私たちの仕事のようなところもあります。本番で使うのは3割くらいでも、その3割が出せないともったいないですからね」
「ODYSSEY」所属キャスターにはそうしたノウハウを伝え、奨励。多忙な中でもそれぞれの実況を確認し、気付いたところは伝えるようにしているという。
「やっぱり実況が好きなので、中途半端な実況を聞いていると言いたくなっちゃうんですよね(笑)。移動中に他のキャスターの実況を聞いて、レビューをLINEで送ったり、リモートで伝えたりもしています。意欲あるキャスターだと『今日、この決勝でしゃべるので、見ていてもらえますか』と連絡が来たりもします。そういう場合は最初から聞くようにもしていますね」