王道・全日本プロレスを牽引した男たち 3冠王座を彩ったチャンピオン、そして今の王者に迫る【連載vol.80】

全日本プロレスの至宝3冠ヘビー級王座。あなたは3冠王者と言えば、誰の顔が浮かぶだろうか? 思えば栄光の歴史が綿々と続いてきた。1989年4月、ジャンボ鶴田が初代3冠王者に輝いてから、天龍源一郎、テリー・ゴディ、スタン・ハンセンが激しく争う時代を経て、92年8月、三沢光晴が第10代王者となり新たな3冠史がスタート。三沢、川田利明、田上明、小橋建太の四天王が覇を競い合った。

令和の顔はこの男 3冠ベルトを腰に巻く宮原健斗【写真:柴田惣一】
令和の顔はこの男 3冠ベルトを腰に巻く宮原健斗【写真:柴田惣一】

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 全日本プロレスの至宝3冠ヘビー級王座。あなたは3冠王者と言えば、誰の顔が浮かぶだろうか?

 思えば栄光の歴史が綿々と続いてきた。1989年4月、ジャンボ鶴田が初代3冠王者に輝いてから、天龍源一郎、テリー・ゴディ、スタン・ハンセンが激しく争う時代を経て、92年8月、三沢光晴が第10代王者となり新たな3冠史がスタート。三沢、川田利明、田上明、小橋建太の四天王が覇を競い合った。

 2000年に三沢らがノアを設立したことで、また新時代に突入する。新日本プロレスから参戦していた武藤敬司が01年6月、第27代王者に君臨。その後、橋本真也、鈴木みのる、佐々木健介、高山善廣ら外敵がベルトを腰に巻くこともあった。

 小島聡は05年2月、時のIWGPヘビー級王者・天山広吉をダブルタイトル戦で下し、3冠とIWGPを同時に保持するという偉業を達成している。

 平成の全日本を代表する諏訪魔は08年4月、初めて3冠を手にし、ここから7回に渡って戴冠。最多戴冠記録を保持している。

 多くのトップレスラーがその名を連ねている3冠史だが、現在の顔と言えば、1・23東京・後楽園ホール大会で王座決定トーナメントを制し、1年10か月ぶりに3冠ベルトを腰に巻いた宮原健斗だろう。5回目の王座獲得であり、3冠王座に関して宮原は「持っている」のだ。

 16年2月、初めて栄光の座にたどり着いた第55代王座は、第54代王者・諏訪魔が負傷で返上した王座を争ったもの。今回の第65代王座も前王者ジェイク・リーがケガを負い王者不在の非常事態となった結果だ。もちろん新王者決定戦を勝ち上がってのことであり、チャンスを逃さない勝負強さがあったればこそだが「3冠王座の女神」が、宮原を気に入っていることは間違いない。ちなみに第55代王座は26歳11か月の時で、最年少戴冠記録として燦然(さんぜん)と輝いている。

 第62代王者時代に築き上げた防衛10回も、川田と並んで最多連続防衛記録。今回、初防衛に成功すれば通算21回の防衛となり、三沢の最多通算防衛記録と並ぶことになる。

 勝てば三沢と並ぶ偉大な記録を打ち立てるV1戦の相手は大日本プロレスのアブドーラ・小林。前王者・ジェイクは「新たな王道、俺の王道を目指す。そのためには、さまざまなチャレンジも辞さない」と「デスマッチ戦士」小林との防衛戦に乗り出した。「3冠戦でハードコアマッチ」はさまざまな論争を巻き起こしたが、それこそジェイクの狙いだったはず。設立50周年の記念イヤーに「俺の王道」を確立するという思いは強かった。

 宮原は王者・ジェイクに挑み60分時間切れ引き分け(21年10月、大田区総合体育館)で「令和の名勝負数え唄」に王手をかけた。「ジェイクVS宮原」が令和の鶴龍対決、三沢VS小橋になる期待感は一気に盛り上がったが、3冠挑戦はしばらく先になると思われていた。ところが……。

 3冠王座の女神の笑みを我が物とする宮原。もちろんこだわりも強烈だ。「俺のレスラー人生にデスマッチはない」とし、ハードコアマッチの土俵に上がるつもりはないようだ。小林に、全日本50年の歴史の重みを突きつけるつもりだ。

 ハードコアに積極的だったジェイクから否定的な宮原に挑戦する相手が変わった小林は「どちらだって違いはない。闘うのは私」と言い切る。意外にも意に介していないようだが、だからこそ宮原の3冠王者ファイトに注目が集まる。

 小林は必ずやいろいろな手を駆使して揺さぶりをかけてくるはず。このいわば「異次元対決」をどう戦うのか。全日本にはいないタイプの小林をどう迎え撃つのか。数々の難敵を撃破して来たが、今回は宮原にとって「最凶の」挑戦者となるだろう。宮原の王者としての力量が試される一戦でもある。

「50周年イヤーの先頭に俺が立った。これは意味があることだし、自信もある」とキッパリ。宮原健斗の一挙手一投足から目が離せない。(文中敬称略)

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