【映画とプロレス #3】“世紀の一戦”猪木VSアリ戦後に画策した異種格闘技戦は「燃える闘魂VS殺し屋」だった
キールと会った瞬間に「猪木と闘わせたい」と思った
キールとは待望の対面だった猪木。ロサンゼルスのホテルで顔を合わせた両雄は笑顔で握手をかわした。猪木がプロレスラーだと知っていたキールはアイアンクローをかけるような仕草を見せた。そして猪木を軽々と持ち上げてしまう。やはりその力は尋常ではない。この瞬間、新間にはひとつのアイデアが閃いたという。
「猪木さんと闘わせたらどれだけ世界中で話題になるだろうか?」
猪木はモハメド・アリ戦で世界中にその名が知れ渡った。かたやキールは売れっ子のアクション映画俳優だ。しかもこの巨体。住む世界こそ異なるが、2人が闘う場面を想像するのは自然の感覚だろう。その上、”過激な仕掛け人”新間寿である。これをビジネスに昇華させることも十分に可能だったのではないか。
だが、肝心のキールにその気がなかった。まず、プロレスへの関心がほとんどなかったのだ。それ以上に、俳優としての過密スケジュールがネックになった。格闘技戦のワンマッチはおろか、プロレスラーとしてデビューさせる話にも結局は至らなかった。すべては新間の妄想で終わってしまったのだ。もったいない……。その事実に改めて新間氏は「猪木VSジョーズの異種格闘技戦。実現すればおもしろいなと思ったよ。もしも実現したとしたら、おもしろかっただろうねえ。なにしろあんなにデカいんだから。馬場さんよりも大きいし、会ったときにこれはいけると思った。猪木さんと馬場さんというのは、猪木さんが馬場を追いつけ追い越せの関係だ。だからこそ、馬場さんより大きいジョーズ(リチャード・キール)との対戦は話題になる。しかも世界中でね。それだけに、もったいなかったなあ」と当時を振り返った。
ジョーズのニックネームで親しまれたキールは2014年9月10日に74歳で亡くなった。晩年にはアニメ「塔の上のラプンツェル」(10年)で声優をつとめ、12年製作のSFホラー「THE AWAKENED」が遺作となった。ちなみに、「007/私を愛したスパイ」でカーリー・サイモンが唄う「NOBODY DOES IT BETTER」は007テーマ曲の中でも屈指の名曲。実は現在もこれを入場曲に使用している女子レスラーが英国にいる。英国女子プロのレジェンド、ジェッタというレスラーがこの曲で入ってくると、場内は「NOBODY DOES IT “JETTA”」の替え歌大合唱。この曲を知る誰もが、キールのジョーズも知っているのである。