さまざまな異名で呼ばれたアンドレ・ザ・ジャイアント キャッチフレーズの魅力【連載vol.79】

1月27日は「大巨人」アンドレ・ザ・ジャイアントの29回目の命日だった。223センチ、236キロの巨体でありながら、動きはスムーズでスピーディーだった。「人間山脈」「一人民族大移動」「世界8番目の不思議」と呼ばれたのも納得だった。アンドレの頭突きは「二階からヘッドバット」。目薬をさすのは苦手なのだが「二階から目薬」というと「二階からヘッドバット」を思い出してしまう。

モンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャイアント【写真:柴田惣一】
モンスター・ロシモフ時代のアンドレ・ザ・ジャイアント【写真:柴田惣一】

毎週金曜日午後8時更新「柴田惣一のプロレスワンダーランド」【連載vol.79】

 1月27日は「大巨人」アンドレ・ザ・ジャイアントの29回目の命日だった。223センチ、236キロの巨体でありながら、動きはスムーズでスピーディーだった。「人間山脈」「一人民族大移動」「世界8番目の不思議」と呼ばれたのも納得だった。アンドレの頭突きは「二階からヘッドバット」。目薬をさすのは苦手なのだが「二階から目薬」というと「二階からヘッドバット」を思い出してしまう。

 アンドレ同様、名レスラーには名キャッチフレーズがある。プロレスのリングでは、鍛え抜いた肉体を誇る超人であるプロレスラーたちが激闘を繰り広げ、ファンを魅了する。まさに非日常の世界とあって、リングネームの他にも異名が誕生する。

 広告代理店勤務の友人に聞くと、キャッチフレーズとは「ひと言や短い文で、人の心をつかむ言葉のこと」で、例えば、同じ商品なのに商品名を変えただけで爆発的に売れたものもあるというから、かなり重要だ。

 アントニオ猪木の「燃える闘魂」はもとより、坂口征二の「世界の荒鷲」や藤波辰爾の「炎の飛龍」、長州力の「革命戦士」、橋本真也の「破壊王」などは、語り継がれる名作だ。

 また「黄金の虎」初代タイガーマスクを起点として、ライバルの小林邦昭は「虎ハンター」、ブラックタイガーは「暗闇の虎」である。

 全米マットで大暴れしたジャイアント馬場は「東洋の巨人」、ザ・グレート・カブキは「東洋の神秘」だが、カブキは馬場の全日本プロレス所属だったから「東洋」となったなどという都市伝説もある。

 外国人レスラーのキャッチフレーズは、聞いただけで恐怖心があおられ、期待でワクワクするモノも多い。

 プロフィール上の出身地などに由来する「インドの狂虎」タイガー・ジェット・シンや「アラビアの怪人」ザ・シーク、「オランダの赤鬼」ウイリアム・ルスカ、「ヨーロッパの墓堀人」ローラン・ボックとくれば、遠い異国に思いをはせることになる。

「黒い呪術師」アブドーラ・ザ・ブッチャーや「黒い魔神」ボボ・ブラジル、「狼酋長」ワフー・マクダニエル「密林王」グレート・アントニオ、「白覆面の魔王」ザ・デストロイヤーなどは、まだまだ外国人が日本に少なかった時代に、畏怖の念を持って注目された。

「カナダの荒法師」ジン・キニスキーは、実際に「荒法師」を見たことがなくても、何となく想像できてしまう。「ケンカ番長」ディック・スレーターも、ケンカに明け暮れた腕っぷしの強い若者が頭に浮かんでくる。

 人間なのに発電所の「人間発電所」ブルーノ・サンマルチノや「人間魚雷」テリー・ゴディ、「鉄人」ルー・テーズ、「プロレスの神様」カール・ゴッチは、ひと言で強さが伝わる。

「鉄の爪」フリッツ・フォン・エリックや「生傷男」ディック・ザ・ブルーザーは、特徴をとらえており、「爆弾小僧」ダイナマイト・キッドや「ぶっ壊し屋」クラッシャー・リソワスキーは激しいファイトを得意することが分かる。

 相反する言葉が組み合わせになったキャッチフレーズもあった。「狂乱の貴公子」リック・フレアーは貴公子なのに狂乱。「殺人医師」スティーブ・ウイリアムスは医師なのに殺人だ。「小さな巨人」グラン浜田は小さいのか大きいのか迷ってしまうが、なぜか楽しくなってしまう。

「銀髪の吸血鬼」フレッド・ブラッシーや「放浪の殺し屋」ジプシー・ジョーも、よくよく考えてみればこれほど恐ろしい形容はない。また、時代の流れで今はもう使えなくなってしまったキャッチフレーズもある。

 ミル・マスカラスの「仮面貴族」「千の顔を持つ男」やマスクド・スーパースターの「流星仮面」はスタイリッシュで格好いい。若者を中心に人気を博した。

 マスカラスの他にも複数の呼び名を持つ選手もいる。スタン・ハンセンは「ブレーキの壊れたダンプカー」や「不沈艦」、ブルーザー・ブロディの「超獣」や「インテリジェンスモンスター」など、人気と実力を兼ね備えたレスラーが目立つ。

 順番にキャッチフレーズを言い合うゲームをしているファンがいた。エンドレスだったが、有名どころが出尽くすと「うずまき仮面!」「銀腕戦士!」なども飛び出していた。

 かつて、神奈川・横浜市出身の期待の若手に「横浜シュウマイ・ハリケーン」と名付ける案が浮上した。だが「かわいいんだか、強いんだか、わからない」と、最終的にはお蔵入りとなった。もし採用されていたら、シュウマイ屋さんのアンバサダーに就任していただろうか。

 プロレスの楽しみ方のひとつがキャッチフレーズ。あなたはどの異名がお気に入りだろうか?(文中敬称略)

次のページへ (2/2) 【写真】アントニオ猪木とドリー・ファンク・ジュニア
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