何をやっても絵になった中西学 豪快かつ繊細だった27年間の野人ヒストリー

新日本プロレスの野人・中西学(52)が22日の東京・後楽園ホール大会で引退した。オカダ・カズチカや棚橋弘至など、第一線のトップ選手に囲まれながらも存在感は抜群。これで引退とは思えないほどの猛ファイトで、中西ワールド全開のラストマッチを完遂した。

全選手でホー!【写真:舛元清香】
全選手でホー!【写真:舛元清香】

「信じられへん。まだやれるやん」

 新日本プロレスの野人・中西学(52)が22日の東京・後楽園ホール大会で引退した。オカダ・カズチカや棚橋弘至など、第一線のトップ選手に囲まれながらも存在感は抜群。これで引退とは思えないほどの猛ファイトで、中西ワールド全開のラストマッチを完遂した。

 試合後には坂口征二相談役が「中西! オマエが一番元気よかった」と声をかけた。天山広吉も「信じられへん。まだやれるやん」と驚きを交えて称賛した。マット界を広く見渡せば、現役最年長77歳のグレート小鹿を筆頭に、66歳の藤波辰爾、ひざの人工関節術を受けている武藤敬司も57歳で体を張っている。藤波が自身のコンディションと比較して「こんないい体して先に引退したら俺、引き際困るじゃないか」と話したように、会場のほとんどの観客が同じ思いだった。

 186センチ、120キロ。筋骨隆々、一目でプロレスラーと分かる肉体だ。そのため、取材では何をやっても絵になった。自衛隊での特訓では戦車の大砲を担ぎ、有刺鉄線の間をほふく前進。海外遠征で民族衣装と古剣を装備すると、瞬く間にギリシア神話のヘラクレスになった。矢野通をアルゼンチンバックブリーカーに決めながら東京タワーの外階段を上ったこともある。

 リングでもスーパーヘビー級との対戦が映えた。2002年10月14日の東京ドーム大会では、ボブ・サップと激突。2メートル、170キロの超獣相手に真っ向勝負の肉弾戦を繰り広げた。230センチ、200キロの大巨人ジャイアント・シルバも中西のアルゼンチンのえじきになった。勝ちっぷりも負けっぷりもとにかく豪快だった。

 アマレスの名門、専大レスリング部出身。当時から1日の摂取カロリーは9000カロリーに達していた。驚異的な肉体を維持する努力も欠かさなかった。トレーニングは野人流。毎朝、自宅近くの階段をうさぎ飛びで駆け上がった。一方、外食ではひと一倍、気を遣った。お気に入りは都内のパキスタン料理店。流ちょうな英語で次々に料理をオーダーした中西は「カレーの油、少なくして」と細かい注文をつけた。「学校が家からやたら遠くて自然と足腰が鍛えられた。それと人付き合いが苦手で友達がいなかったからよく河原で釣りに行っていた。岩場を歩いてバランス感覚を養ったし、魚の当たりで反射神経が鍛えられた」。屈託のない笑顔で、少年の頃の思い出を語った。

 スタイリッシュなレスラーが脚光を浴び、中西のような無骨なレスラーは業界全体で姿を消しつつある。

 中西は引退セレモニーで言った。

「本当にさっきまで歩けへんぐらい足引きずってても、皆さんの声援もろたら急に動けるようになんのがレスラーやと、そうやと思うんやけど、ちゃうかな。そういう人種やと思うんで。ホンマ、典型的なレスラー体質な自分やと思うんですけど、そういうところでなんとかやらせていただきました」

 最後まで貫いた野人イズム。今後は実家・京都の茶農家を手伝いながら、第2の人生をスタートさせる。

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