田中泯「ダンスを芸術という必要はない」 農業で鍛えた肉体で踊る76歳のダンサーの哲学
「“踊りは踊り”だし、本当は“私はダンス、ダンスそのものです”と言いたい」
田中のダンス、生き方はすべてが有機的につながっている。「舞台や人が見ているところで見せるものを“踊り”と名付けているわけではなく、全部がつながっている行為だと僕は思います。例えば、アジアの少数民族のドキュメンタリーなどを見ていると、必ず踊りが出てきますよね。うれしいことがあれば踊り、お酒を飲むと踊り、悲しい時も踊る。これは世界共通だと思います。日本は特にそういう国。ですから、ダンスは単に練習して成立するものではなくて、人間の心と関係しているものだと思っています。ダンスの間口の広さは、他の表現とはちょっと違うんですよね。ダンスを芸術と言う必要もないし、“踊りは踊り”だし、本当は“私はダンス、ダンスそのものです”と言いたいんです」
ライフワークに「場踊り」というものがある。各地に出かけ、その場の空気、風、人々を五感で感じながら、その場だけの踊りを見せるパフォーマンスだ。それは息をのむような素晴らしさだが、収入にはなりうるのか。「そりゃ、歴然としているじゃないですか。なりませんよ」
若い世代に向けては「食いぶちをどうするかなんて、みんなが違って当然だと思いますが、世間では全部ならされてしまって、自分が本当に望む生き方を選べなくなっている。僕は、経済・政治も自分で選べることが最初にあって、そこからどう生きていこうかを決めていくのが自由の原則と思います。何をやるために稼ぐのか、稼ぐということはどんな意味があるのか。そういうところを考えて、いろいろ試していけばいい」とアドバイスを送った。
□田中泯(たなか・みん)1945年3月10日、東京都生まれ。66年クラシックバレエとアメリカンモダンダンスを10年間学び、74年より独自の舞踊活動を開始。78年にパリ秋芸術祭「間―日本の時空間」展(ルーブル装飾美術館)で海外デビューを飾る。以降、独自の踊りのあり方「場踊り」を追求しながら、「カラダの可能性」「ダンスの可能性」にまつわるさまざまな企画を実施。ダンスのキャリアを重ねる一方で、57歳のころ、「たそがれ清兵衛」でスクリーンデビューし、以降映画への出演多数。