「トリック」「SPEC」ヒットメーカー堤幸彦監督が抱くコンプレックス、50作目の矜持

「トリック」「SPEC」シリーズなどで知られる堤幸彦監督(66)の記念すべき50作目は製作費700万円の自主映画だ。「truth~姦(かしま)しき弔いの果て~」(1月7日公開)は、亡き恋人(佐藤二朗)の部屋に集まった3人の女がマウント合戦を繰り広げるコメディー。数十億円規模の超大作「20世紀少年」3部作を手掛けたヒットメーカーはなぜ自主映画を作ったのか。フィルモグラフィー、自身のルーツも語る。

自身のルーツを語った堤幸彦監督【写真:ENCOUNT編集部】
自身のルーツを語った堤幸彦監督【写真:ENCOUNT編集部】

7日公開「truth」、3人の女がマウント合戦を繰り広げるコメディー

「トリック」「SPEC」シリーズなどで知られる堤幸彦監督(66)の記念すべき50作目は製作費700万円の自主映画だ。「truth~姦(かしま)しき弔いの果て~」(1月7日公開)は、亡き恋人(佐藤二朗)の部屋に集まった3人の女がマウント合戦を繰り広げるコメディー。数十億円規模の超大作「20世紀少年」3部作を手掛けたヒットメーカーはなぜ自主映画を作ったのか。フィルモグラフィー、自身のルーツも語る。(取材・文=平辻哲也)

 映画界随一のヒットメーカーにオファーを出したのは、昨年4月の緊急事態宣言下で活動中止を余儀なくされた3人の女優だった。広山詞葉、福宮あやの、河野知美は昨年9月、文化庁の継続支援事業助成金700万円を元手に、自分たちが主演する映画を作りたいと連絡した。

「監督生活30数年ですが、女優からオファーされたのは初めて。すぐに『やります』と言いました。正直言えば、暇だった。本来なら3本ぐらい映画本編を撮っている予定でしたが、コロナでうまくいかなくなって、自分自身もふさぎ込んでいたから」。

 3人の企画は「精子バンクをテーマに、3人の女が登場する物語」。すぐに物語のアイデアが浮かび、脚本は「明日の記憶」「2LDK」でタッグを組んだ三浦有為子氏が担当。企画から準備までは約2か月、撮影は2日間。いままでにはないスピード感で作り上げた会話劇は「ローマ・インターナショナル・ムービーアワード最優秀作品賞」「ベルリンインディー映画祭特別賞」「ノースイースト国際映画祭最優秀コメディー賞」など海外映画祭で67つの賞に輝いた。

「何億円をかけて作っても、賞にはほとんど縁がなかったにもかかわらず、皮肉な結果だなと思っています。素直に撮れば、面白いものができるんだな、と。映画の面白さは、役者の有名無名でも、原作の面白さでもないということ。ローマにいたっては、最高賞ですから」と、本人もこの快挙に驚いている。

 通算50作は通過点。「自分が思っているエンターテインメントの究極の形である映画をやるチャンスが50回あったということには感謝でしかない。だがしかし、今後、もっともっと国内のみならず、世界的にも話題になる、人の心をざわつかせる作品を作るために、頑張れよってことだと思うんです」。

 記念すべき作品が自主映画だったことには意味を感じている。「本来、映画はこっちから仕掛けて、撮るのが当たり前。いままで配給会社やテレビ局にお願いをして、映画を撮らせてもらうという受注産業に甘んじた自分を恥じました。作りたくても、お金がたくさんかかるから無理だと諦めていたことも間違いだった。製作費700万円は通常ミュージックビデオ2曲分くらいの予算感。それでも、きちんとやればできるんだ、と」

 堤監督は映画界にあって、異色の経歴の持ち主だ。名古屋での高校時代はロック少年。「はっぴいえんど」に憧れ、上京。法政大学在学中は学生運動に明け暮れた。

「政治運動に疲れて、大学も退学した。ネクタイを締める仕事はもう無理とあきらめた。公園でボーとしていたら、足元に転がってきた新聞に、AD募集の広告があって、東放学園専門学校に入ることからスタートした」。

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