2021年映画界の顔、濱口竜介監督 三大映画祭での栄冠は「偶然。賞は運だと思います」

映画作りにおいて監督は「本当に何もしない」【写真:ENCOUNT編集部】
映画作りにおいて監督は「本当に何もしない」【写真:ENCOUNT編集部】

「ドライブ・マイ・カー」は来年の米アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表に

 監督の意図はうまく作用している。第3話には「こんなことがあったら、素敵だろうな」と思わせ、見事に泣かされてしまった。それぞれの物語はどうやって生み出されたか。「無理やり生んでいますね。1話は喫茶店で、たまたま耳にした女性同士の恋バナをヒントに考えました。自分が見聞きしたり、友人の話をタネに何とか育てる感じですね。基本的には締め切りを作ること。企画を提案したプロデューサーに読んでもらうことを一つのゴールとしました」。

 自身は、「偶然」の恩恵に預かった経験はあるのか。「細々としたものがあるんですけど、『これで俺の人生違ったな』みたいものはあんまりないですね。ただ、作品を撮っている時は感じることはあります。天候に関しては結構恵まれている。よくこういう場面で、こんな天気になるな、と思ったりします。それが作品を決定づける大きな力にもなっている。また、そういう映すものが映画だと思っています」。

 世界三大映画賞での栄冠にも「偶然が重なったっていうことはあるとは思いますね」と話す。「僕自身も映画祭の審査員をやった経験もあるので、よく分かるんです。賞というのは、審査員が誰かによって、取る、取らないが左右される。賞はありがたいですけども、それで作品が変わるわけではない。賞を頂いても喜び過ぎないように、と思っています。大谷翔平くんは運をよくするためにゴミを拾うようにしているそうですが、僕も日頃の行いをよくしていこうとは思っています」と笑う。

 もちろん、賞は偶然ではなく、実力への正当な評価だ。その証拠に、大谷同様、受賞ラッシュは止まらない。「偶然と想像」はナント三大陸映画祭(11月20~28日)でもグランプリと観客賞を受賞。「ドライブ・マイ・カー」は来年の米アカデミー賞国際長編映画賞の日本代表にも選ばれた。ノミネートは今後にかかっているが、カンヌでの受賞も大きな後押しだ。濱口監督自身も、配給会社の要請を受け、米国でのプロモーションを行う。

「せっかく、いい作品を作ったのだから、プロモーションしてください、ということなんだと思います。日本の代表に選ばれただけで十分ありがたいです。でも、アカデミー賞の現場に入れたら人生の記念になりますね」

 インディペンデントと商業映画界のはざまにいて、常に作品が高く評価されてきた。メジャーや海外からのオファーがあったら、どう考えるか。「ある程度自由にやらせていただけるのなら、やってみたい。相応の規模のものは自分1人ではできない。信頼できるスタッフたちとやっていくことが大事なんです。監督って、映画作りでは、本当に何もしないんですよ。基本的にカメラの技術もわからないし、演技ができるわけでもない。作家としてはすごく不思議な部類のものなんですよね」。そう謙遜する濱口監督だが、次作でも新しい地平を見せてくれるのは間違いない。

□濱口竜介(はまぐち・りゅうすけ)1978年12月16日、神奈川県生まれ。2008年、東京藝術大学大学院映像研究科修了。商業映画デビュー作「寝ても覚めても」(18)はカンヌ国際映画祭コンペティション部門に選出。脚本を手掛けた「スパイの妻〈劇場版〉」(20、黒沢清監督)はベネチア国際映画祭銀獅子賞を受賞。

次のページへ (3/3) 【写真】注目の女優・古川琴音も出演する「偶然と想像」の場面カット。親友同士の恋バナなど3話からなる短編集だ
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