9人組ガールズグループ・NiziUの初アルバム「U」（24日発売）に収録されているリード曲「Chopstick」のミュージックビデオ（MV）をめぐってネット上では多くの考察が発表されている。同曲の作詞作曲はJ.Y.Park（パク・ジニョン）氏。19世紀にイギリスで誕生したピアノ練習曲「Chopsticks」をサンプリングし、ヒップホップサウンドの楽しい曲に仕上げた。2分55秒のMVもかわいらしいが、制作チームはこの作品の世界観にファンを引き込むためセットの細部に多くの伏線を張っているようなのだ。魅力と謎に満ちあふれた同曲のMVを分析してみた。（取材・文＝鄭孝俊）

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「Chopstick」とは英語で箸のこと。2本1組で使うことから通常は複数形の「Chopsticks」を用いる。ではなぜタイトルが単数形なのか。それは歌詞にある「1本じゃつかめない」という意味を強調するためだ。1人じゃつまらないから君（ファン）とペアになりたい、という切ない気持ちがこの楽曲のモチーフだ。それをベースにピアノ練習曲の「Chopsticks」（原題は“The Celebrated Chop Waltz”）をサンプリングし、ピアノの鍵盤が宙を舞うというダイナミックなVFX（ビジュアル・エフェクツ）で視覚効果を高めている。

　まず気付くのは同曲のMVは時間軸の変化と数字の「2」（＝2本で箸1膳）に強いこだわりがあるということだ。冒頭で3拍子のワルツである「Chopsticks」をメンバーが左右の人差し指で弾いているが、人差し指の指番号は「2」だ。イントロが終わると4拍子に変化し歌い出しで時針（短針）と分針（長針）という言葉が現れる。

　時計の時針と分針の関係性を考えてみると、1日のうちで時針と分針が重なる回数は22回だ。「Chopstick」のMVの公開日は箸の日である＜11月＞＜11日＞でそれぞれ1＋1＝2となり、両方を並べると「22」という数字が現れる。時針と分針という普段はあまり使わない時計の用語をわざわざ歌詞の最初に持ってきたのは、時針と分針が重なることを君と一緒にいる時間（ペアになること）に例えたかったからかもしれない。ちなみに日本、中国、韓国では共通文化である箸について視覚的に箸に見える11月11日を「箸の日」に制定している。

　歌い始めに登場するRIMAはセーラー服を着ている。色は白と黒。ソックスは白で靴は黒。どちらも鍵盤の色をイメージさせる。しかも、セーラー襟と袖口には2本線があり、こちらも「2」でそろっている。AYAKAも制服姿だが、メーキング動画を見ると、高校生の2人が「私たちLJK（ラスト女子校生）」と話しており、それを前提としたキャスティングだったことが想像できる。

　2人がピアノを弾くシーンを注意深く見ると、それぞれのメトロノームの速度が異なる上、奥の画面に配置された2人は椅子の上をカクカクと小刻みに移動している。これは2人の時間軸がずれていることを示しており、2人が並行世界ですれ違っている、つまり1本ずつバラバラの箸であることを暗示している。メトロノームの針が1本であることも関係しているようだ。しかも、後半部分のRIMAのピアノシーンはメトロノームの針が壊れているかのように止まったままだ。RIMAの後方には柱時計があるが、こちらも振り子が止まっている。時間が止まってしまった世界（＝死）を示唆することで1人でいることの深い悲しみを表現しているようだ。

　AYAKAのピアノの後ろには本棚が見える。NiziUの公式インスタグラムに本棚の前でポーズをとるAYAKAの写真がアップされていたので調べてみた。そこにはスリラーの名作として知られるリンダラ・プラントの「Twisted」、アンディ・マクナブの「Fortress」のほか、パトリシア・コーンウェルの犯罪小説「Predator（邦題・神の手）」やウィルバー・スミスの戦争小説「Courtney’s War」などのタイトルが並んでおり、どれも悲しみを内包する不吉な雰囲気が漂っている。RIMAとAYAKAのピアノシーンは見方によってはかなり恐ろしい。

　RIMAの後方にある柱時計は5時5分を指している。実は「5」はNiziUにとって重要な数字だ。2枚目のシングル「Take a picture」のMVの開始から3秒後、メンバー9人が「エバーランド」の敷地内に忍び込もうとするシーンが現れるが、エントランスのゲート上には「5」という数字が表示されている。JYPからはWonder girls（ワンダーガールズ）が同社初の女性グループとして07年2月10日にデビュー。2組目が10年7月1日にデビューしたmiss Aで、15年10月20日にTWICE、19年2月12日にITZYがデビューした。ITZYの後にデビューしたNiziUは、JYPが輩出した歴代“5”組目のガールズグループとなるのだ。