日本の中古レコードが世界で売れまくる理由 物を大事にする“日本らしさ”の背景

デジタル配信が隆盛を誇る音楽界で、アナログレコードの人気が世界的に再燃している。海外で需要が高まりを見せる中で、日本の中古レコードが高く評価されているという。海外輸出を展開する業者に聞くと、物を大切にする“日本ならでは”の背景があった。

「株式会社イザード」小坂ランゲ由維社長は日本の中古レコードの海外輸出の現状を語った【写真:ENCOUNT編集部】
「株式会社イザード」小坂ランゲ由維社長は日本の中古レコードの海外輸出の現状を語った【写真:ENCOUNT編集部】

“絶滅危機”からの復権 音質やジャケットのデザイン性が再評価 若年層の関心も高まる

 デジタル配信が隆盛を誇る音楽界で、アナログレコードの人気が世界的に再燃している。海外で需要が高まりを見せる中で、日本の中古レコードが高く評価されているという。海外輸出を展開する業者に聞くと、物を大切にする“日本ならでは”の背景があった。(取材・文=吉原知也)

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 厳しさの増す業界の中で、レコードの復権はめざましい。全米レコード協会のリポートによると、米国では2020年上半期にレコードの売上高がCDを上回った。日本も例外ではない。ソニー・ミュージックエンタテインメントは18年に、レコードの自社生産を29年ぶりに復活させた。日本レコード協会の資料によると、アナログディスクの生産実績は金額ベースで、11年は「3億3600万円」だったが、20年は「21億1700万円」にまで拡大している。

 こうした中で、「日本の中古レコード」が世界で脚光を浴びているという。横浜を拠点にレコードや楽器の海外輸出を展開する株式会社イザード(現:株式会社MION)の小坂ランゲ由維(ゆうい)社長は「レコードにはとてつもない需要があります。日本のレコードの価値は世界で認知されています」と説明する。

 時代とともにCD、サブスクリプション(定額制の配信サービス)が登場し、“絶滅危機”に陥ったレコード盤。近年、音質やジャケットのデザイン性が再評価されるとともに、国内外のミュージシャンがアナログ盤を発売。若年層にとっては新たな魅力に捉える側面もあるようで、人気復活を遂げたと言える。

 同社はもともと、レコードプレーヤーの輸出業をきっかけに、16年末から国内で中古で買い取ったレコード自体の海外輸出を開始した。当初、1枚1枚の単価が低い中古レコードはビジネスとして難しいと考えていたというが、ふたを開けてみれば、売買価格が年々高騰化となり、“大当たり”だった。80年代を中心とした日本発の音楽ジャンル「シティーポップ」が海外でブーム到来となったことも重なり、山下達郎や竹内まりや、大瀧詠一のレコードが人気に。小坂社長は「セルビア人の友人やフランス人の先輩から、『山下達郎のレコード持ってる?』と聞かれるようになって、驚きでした。今、自分は(昭和の名曲)『異邦人』をベルリンのDJにオススメしているんです」と笑顔を見せる。

 日本のミュージシャンに加えて、海外の有名アーティストが国内で発売した「日本盤」も海外ユーザーの注目の的に。同社では日本の中古レコードを毎月約3万枚、系列企業を展開するドイツに輸出している。約20万枚を保有するドイツの系列会社は流通機能を持ち合わせており、フランス、スペイン、フィンランドなど欧州の広範囲で販売。主要マーケットの米国にも出荷している。現状の売り上げは、日本・ドイツともに昨年と今年を比べて2倍で堅調という。

 なぜ、日本の中古レコードがこうも評価されるのか。小坂社長は「物を大事にする日本の文化がある」と強調する。日本で出回っている中古レコードは、数十年たっている物でも傷が少なく、スリーブ(ジャケット)の角が劣化していないなど、保存状態がいい。また、歌詞カードなどのライナーノーツ、付属品のポスターやおまけなどが当時のままそろっているケースも多く、特に海外コレクターの間で希少性が高い「帯」が残っていることもポイントだという。

「欧米では、言ってみればレコードはフリスビーのような扱いですが、日本では丁寧に扱われて保存されているのです。中古レコードの国際的な評価基準・システムがあるのですが、それを自分の感覚で伝えると、欧米のレコードは10段階のうち6、日本は8、9です」と小坂社長。ドイツで展開する中古レコード販売では、当たり前のように日本で取り組んできた、「丁寧に梱包する」「時間内に発送する」といったカスタマーサービスを打ち出したところ、ユーザーレビューで高評価を受けているという。物を大切にするなどの日本の美徳が、中古レコードの世界的評価につながっているようだ。

 レコード市場全体の今後の見通しはどうか。小坂社長は一過性のブームではなく、また新たな文化としてレコードが定着してきている実感があるといい、「コロナ禍もあって家にいる時間が多くなる中で、音楽を聴くことの楽しさを改めて多くの人が知ったのではないか。レコード人気は継続すると思います」と話す。

 同社の客層は50代以上が中心だというが、レコードに関心を持ち始めた若年層の動向がカギを握りそうだ。小坂社長は、レコードに針を落として音を出す“アナログ手法”が若者の興味をかき立てる要素になっていると考えている。「レコードを扱う“面倒くささ”も魅力の一つ。若者にとっての音楽は、これまでスマホからただ流れるものだったと思いますが、レコードを通じて自分が好きな音楽を探して選ぶ面白さに気付き始めたのではないか。今後につながっていくはずです」。海外の流通網を駆使した新展開の構想を持っているといい、「タイアップ企画などで、日本の若いアーティストを世界に向けて発信するような手助けができれば」と夢を膨らませている。

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