日本を代表する名バイプレーヤー、俳優歴60年の寺田農がなりたかった、もう一つの職業

寺田農は主演と助演の違いを投球にたとえた【写真:ENCOUNT編集部】
寺田農は主演と助演の違いを投球にたとえた【写真:ENCOUNT編集部】

ほかのキャストはかつらも、寺田は剃髪を選択「髪の毛って大事なんだな」

 撮影は2年前の冬の京都。ほかのキャストはマゲや坊主頭のかつらを着用したが、寺田は剃髪を選んだ。「特殊メイクは大ベテランの江川悦子さん。かつらも用意してくれたんですが、江川さんの腕をしても1時間以上かかるわけですよ。『撮影の1か月間、毎朝4時半に現場くる?』と聞かれて、ソルことにした。インディペンデントの映画はいつ急に飛んじゃうかわからないから、クランクイン前日にしたのかな。頭を剃って、髪の毛って大事なんだなと思ったね。冬の京都だから、寒いんだよ。面白いのは、3日くらいたつと、白いのが出てくるんだよね。ラストの方は伸びた感じを大事にして撮影した」。

 由緒ある寺社仏閣でロケし、衣装、甲冑などの小道具も忠実に再現。「京都の東映でもなかなか借りられないような寺をお借りしての撮影でね。そういうものを用意されたら、その雰囲気を味わって、普通にやればいいんですよ。特に主役のやることは全部、本に書かれている。楽と言っちゃ変だけど、そんな苦労もしないで、楽しい1か月間でした。今回は金子さんと(プロデューサーの)宮下(玄覇さん)の下、素晴らしい舞台背景の中で存分に遊ばせていただいたな」。

 劇中の信虎は、家名を残そうと奔走するが、寺田は何を残したいのか。「何もないよ。僕は本名だから、寺田姓なんだけども、父はきょうだい11人の次男、いとこは23人いたけど、22人が全員女。寺田姓は俺だけ。俺の娘も子供がいないので、寺田姓はこれで終わり。信虎みたいに家名を残したいなんて思いはないけど、当時の武将は、それが誇りだったんだろうね」。

 俳優活動は今年で60年。「節目は全然意識もしないけども、振り返ってみると、若いときは青春モノみたいなテレビをやって、岡本喜八さんの映画『肉弾』で主演男優賞。若いときだったし、全く戦争の話は知らない世代的だから、監督に言われるがままに坊主頭になって、『はいはい』と走り回ったので、工夫のかけらもない。それで後に主演男優賞なんてもらうんだから、映画は監督のものなのです」。

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