大ヒット作「イカゲーム」最終話解説 「第7ゲーム」の存在と韓国社会への痛烈な批判

Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創業以来最大のヒット作となっている。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は最終話(エピソード9)について紹介する。

「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェ【写真: (C)Netflix】
「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェ【写真: (C)Netflix】

「運のいい日」は1924年発表の短編小説

 Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創業以来最大のヒット作となっている。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は最終話(エピソード9)について紹介する。(文・構成=鄭孝俊)

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(※以下、ドラマの内容に関する記述があります)

「イカゲーム」第9話のタイトルは「運のいい日」。朝鮮半島が日本の植民地だった時代の1924年に作家の玄鎮健(ヒョン・ヂンゴン)が発表した短編小説「運のいい日」にちなんでいる。社会の底辺で暮らしている人力車夫が雨の日に経験する幸運と悲劇を描いており、学校の教科書に載るほど有名な作品だ。「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンも困窮しているため破格の大金が狙えるデスゲームへの参加を決意した。ギフンの現在の仕事が運転代行となっているのもこの短編小説から来ている。

 第1ゲーム「ムクゲの花が咲きました」(日本ではだるまさんが転んだ)、第2ゲーム「型抜き」、第3ゲーム「綱引き」、第4ゲーム「ビー玉遊び」、第5ゲーム「飛び石渡り」。この5つのゲームを勝ち抜いて最終話まで残ったのは主人公のギフン(456番)と幼なじみのサンウ(218番)。攻守を決めるコイントスでギフンは三角を選び、サンウは四角となった。2人のナンバーの下一桁を見るとギフンは6、サンウは8。それぞれ3(=三角)と4(=四角)の倍数だ。4は韓国語で「サ」。「死(サ)」と同じ発音だ。ここにも勝敗の結果が暗示されているようだ。

 最後となる第6ゲームはドラマタイトルにもなっている「イカゲーム」。イカの頭を足で踏めば攻撃側の勝ち、内側に入って来た攻撃側を外に押し出せば守備側の勝ち。どちらか一方が続行不能な状態になったら残った方が勝ちというルール。つまり、相手の息の根を止めれば勝ちとなり、そのためにはどんな手段も許されるというわけだ。

 2人の対決が始まると、雨が降り始めた。短編小説「運のいい日」と同じだ。死闘の末にギフンはサンウを倒して優勝を確実にした。しかし、ギフンはゲームの中断を求める。「賞金を諦めるだと?」と驚くVIPたち。雨に打たれながら地面に横たわるサンウに手を伸ばし「帰ろう」と呼びかけるギフン。大金よりも幼なじみの命を選ぼうとするギフンの優しさがにじみ出る。カネで何でも買えると思っているVIPの冷酷さが逆に際立つ場面だ。結局、サンウはナイフを自身の首に突き刺し自害。ゲーム続行不能な状態となったためギフンの勝利となった。

主要キャストの最期に共通性 過去の行為が反復

 最後のゲームの開始前、ギフンはまだ息のあったセビョクを殺したサンウを強く非難し「賞金は渡さない」と突き放した。注目したいのはサンウの最期だ。サンウは最後の晩餐で渡されたナイフをセビョクの首に突き刺して殺害。今度は同じ凶器で自身の首(セビョクと同じ部位)を突き刺して絶命した。この行為は自身への罰であったとも考えられる。 
 実は主要キャストの最期にはある共通性が見られる。例えばチャン・ドクス(101番)は組織の金を使い込み追われる身。フィリピンマフィアに命を狙われた際は橋から川に飛び込んで逃げ去った。そのドクスは空中の橋で繰り広げられた「飛び石渡り」でハン・ミニョ(212番)に抱きつかれて床に転落し死を迎えた。つまり自身の過去の行為と自身の死に方が一致しているのだ。このような反復について類似の考察が上がっている。

 まとめると以下のようになる。

・チャン・ドクス(101番) 橋から川に飛び込んで逃走→「飛び石渡り」の橋から転落し死亡
・カン・セビョク(067番) 脱北ブローカーの首にナイフを突き付け脅迫→首をナイフで刺され死亡
・チョ・サンウ(218番)  浴槽に横たわり練炭自殺未遂→地面に横たわり雨に打たれながら死亡
セビョクの首をナイフで刺して殺害→自身の首をナイフで刺して自害
・ファン・ジュノ(警察官) イカゲームの会場に侵入するため運営係を殺害し海に投棄→フロントマンに銃で撃たれ海へ転落(ただし死亡は確認されていない)

 過去の行為が参加者自身の死を決めてしまうという見事な伏線の張り方は緻密な計算があってこその描写だ。

イルナムは「ハナニム」か ゲームの絶対的存在

 コラムEP1でも触れたが、最終話の勝者は第1話の中ですでに暗示されている。ギフンが競馬で大勝した第10レースの1着は「6」、2着は「8」。ギフン(456番)とサンウ(218番)の番号の下1ケタを見ると「6」、「8」だ。第1話で張られた伏線が最終話できれいに回収されたかっこうだ。さらには黒幕(ホスト)である「001番」のオ・イルナムが始めたゲームが、最後尾である「456番」のギフンによって終了する、というのも美しい。

「おじいさん」と呼ばれたイルナムについても考える必要がある。イルナムの「イル」は「1」、「ナム」は「男」を意味する韓国語だ。残酷なゲームの主催者(ホスト)だから「001番」という特権的な数字が与えられており、最後尾となった「456番」のギフンとは真逆の存在でもある。さらに踏み込むと「1」は韓国語で「ハナ」とも読む。韓国のプロテスタントでは神様を「ハナ(=神)ニム(=様)」と呼んでいる。唯一の存在であることを強調した言葉だ。

 ドラマではキリスト教にまつわる場面が他にもたくさん登場する。地下鉄でめんこゲームを持ち掛けられたギフンは「イエスは信じない」とつぶやく。「綱引き」では狂信的なキリスト教徒(244番)が登場し「罪深き皆に代わって尊い犠牲と神の選択に感謝し祈りを捧げているのだ」と語る場面があった。

 この「244」という数字を分解すると、2+4+4=10となる。キリスト教の「10の災い」では父なる神が奴隷状態にあったイスラエルの民をエジプトから救出するためナイル川の水を赤い血に変える、など10種類の災害を与える。「イカゲーム」でも参加者は運営側の奴隷状態に置かれており脱落者が死ぬとあたり一面が血の海と化す。「イカゲーム」の世界では、脱落者はギフトのように装飾された棺に入れられ焼却される。死が神への贈り物であり、救いとなっている。

 リムジンから放り出されたギフンを助けたのは路上で布教するキリスト教信者だった。ギフンの目隠しを取ってあげた信者は「イエスを信じなさい」と語りかける。ゲーム参加のきっかけとなっためんこの場面では「イエスは信じない」とキリスト教を拒絶したギフンが、ゲーム終了後にはキリスト教信者によって救われる。「イエスは信じない」(第1話)→「イエスを信じなさい」(最終話)。この2つのせりふの配置も計算されたものであり、裏返るめんこを見ているようだ。韓国はキリスト教徒が多いが、欧米の視聴者を意識している側面もあるだろう。

6回のゲームは終了 最後に残された「第7のゲーム」

 最終話後半は実に興味深い展開だった。イルナムはホームレス状態のギフンを高層ビルに呼ぶ。日時は12月24日午後11時30分。イエス・キリストの降誕を祝祭するクリスマスイブだ。ギフンは指定された高層ビルに赴きエレベーターのボタンを押す。不思議なことにボタンは「7」の表示しかない。イルナムのベッドは「7」階に置かれており、ホームレスの救助をめぐってイルナムとギフンは最後のゲームをする。

 この「7」という数字に意味が隠されている。(1)ムクゲの花が咲きました、(2)型抜き、(3)綱引き、(4)ビー玉遊び、(5)飛び石渡り、(6)イカゲーム。これに続く7番目のゲームとして位置付けられているのだ。デスゲームの世界で神のような存在だったイルナムは深夜零時に永遠の眠りについた。最後のゲームに勝ったギフンが新たなる神なのか。ギフンは美容院に行き髪をゲームの運営側コスチュームと同じ色である赤に染めている。「血の色」「復讐を誓う決意の色」「運営の服の色」「続編でゲームの主催者になる伏線」などの推理が視聴者の間で上がっている。

 ちなみに、ギフンが訪れた高層ビルの名前は「SKYビル」。韓国の超学歴社会を象徴するソウル大(S)、高麗(コリョ)大(K)、延世(ヨンセ)大(Y)の頭文字と同じだ。イルナムが永遠の眠りにつく部屋の窓からは証券会社のネオンサインが見えており、証券会社で不正を働いたソウル大卒の秀才・サンウの姿が思い出される。ギフンが髪を切った美容院のテレビからは「韓国の家計債務の増加速度世界2位」というニュースが流れていた。視聴者はおとぎ話の世界から突如現実に引き戻されたような気持ちになるはずだ。

 格差と困窮という世界の構造的矛盾を生と死の緊張関係をベースに鮮烈な色調で描き切った「イカゲーム」。登場人物それぞれの物語は特別に創作されたものではなく、私たちの隣人が今この瞬間に経験している現実なのである。

 最後にこのドラマを象徴する「〇」「△」「□」の図形が全6ゲームの随所で使われていたことを紹介して終えたい。

(1)ムクゲの花が咲きました:ヨンヒ人形のヘアピンに「〇」「△」「□」
(2)型抜き:カルメ焼きに「〇」「△」
(3)綱引き:中央のギロチンに「□」「〇」
(4)ビー玉遊び:玉の形が「〇」
(5)飛び石渡り:ガラス板の形が「□」
(6)イカゲーム:地面に描かれた図の中に「〇」「△」「□」

(終わり)

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