大ヒット作「イカゲーム」EP8解説 「最後の晩餐」と三角形の謎と兄弟対決という伏線
セビョクの生死に三角形が深く関与
さらに、テーブルの床の模様はチェス盤のようだ。「飛び石渡りゲーム」の模型にチェスの駒が使われていたことは以前にも触れた。このビジュアルは「飛び石渡りゲーム」で生き残った勝者を称える、といった意味合いが含まれていそうだ。
晩餐が終わりそれぞれのベッドに戻った3人。ギフンがセビョクに近づくと「私は人を信じない」と言っていたセビョクが「おじさん、約束して。勝ち残った方が互いの家族の面倒を見ることを」とギフンに頼む。「飛び石渡りゲーム」で爆破されたガラスの破片が腹に刺さり瀕死(ひんし)の重症を負っているセビョクは「家に帰りたい」と漏らす。ゲームは過半数が同意すれば中断できる。ギフンとセビョクが同意すればゲームはここで終了する。
ギフンは狡猾(こうかつ)なサンウに先制攻撃をかけようと動き出すが、セビョクは「やめて。おじさんはそんな人ではないでしょう」と自制を求めた。ゲーム中断を食い止めるためサンウはギフンが目を離しているすきにセビョクを殺害する。自身の言葉があだとなったセビョク。皮肉な運命に翻弄(ほんろう)されるセビョクに視聴者はいつしか感情移入してしまう。セビョクの死は同ドラマの中で最も泣けるシーンの1つだ。
ただし、綱引きゲームの実施を事前に聞き出した医者が「ここでは皆が平等でありチャンスも公平に授かるべき」と主張する運営側によって処刑されたことを踏まえると、共同寝室を抜け出して運営作業室の砂糖を目撃したセビョクも途中で命を落とすことが予見された。サンウも同様だ。
注目点はセビョクのベッドの位置。近くの壁面には「型抜きゲーム」のピクトグラムが見える。セビョクが運営作業室で砂糖を目撃したことを聞いて、2番目のゲームが「型抜き」であることを見抜いたサンウ。セビョクはサンウの行動を注視しサンウと同じ「△」の列に並んだ。サンウの推理によって命をつないだセビョク。今度はそのサンウによって命を落とすことになったのだ。地面に描かれた「イカゲーム」(初回、最終回で登場)の頭の部分も三角形だ。ギフン、サンウ、セビョクの生死には三角形が深く関わっていた。緻密に計算されたストーリーデザインであり、驚くべき構造美と言えるだろう。
セビョクの棺が焼却炉へと運ばれる際に流れている曲は64年にフランク・シナトラがカバーして爆発的ヒットとなったジャズのスタンダードナンバー「Fly Me to the Moon」(フライ・ミー・トゥー・ザ・ムーン=月に連れて行って)だ。セビョクは韓国語で夜明けという意味で、月とは関係が深い。また、セビョクは生前、済州島に行きたいと打ち明けていた。済州島には涯月(エウォル)、月汀里(ウォルチョンリ)など「月」が付く人気観光地がある。セビョクを見送るのにふさわしい楽曲と言えそうだが、あまりに悲し過ぎる。