大ヒット作「イカゲーム」EP3解説 「〇」「△」「□」仮面の意味 セットにエッシャー「上昇と下降」

Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創設以来最大のヒット作となった。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第3話(エピソード3)について紹介する。

「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェ 【写真:(C))Netflix】
「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェ 【写真:(C))Netflix】

死の型抜きゲーム 撮影現場には甘い香り

 Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創設以来最大のヒット作となった。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第3話(エピソード3)について紹介する。(文・構成=鄭孝俊)

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「イカゲーム」第3話のタイトルは「傘をさした男」。多数決で殺人ゲームの中断が決まったものの、地獄のような現実生活から抜け出すため帰宅した201人のうち187人がゲーム会場に戻ってきた。再参加率は93%。待ち構えていたのは甘くて危険な「カルメ焼きの型抜き」ゲームだった。

 出演者のよると撮影現場にはカルメ焼きの達人が待機しており、1日中カルメ焼きの甘い香りが漂っていたという。型抜きの種類は丸、三角、星、傘。主人公のソン・ギフン(イ・ジョンジェ)は最も難度の高い傘を選んでしまった。ギフンが「オレは傘をなくしてばかりいたから母親から折れた傘を持たされていた。ちゃんとした傘を持つのが夢だったんです」と明かす場面が登場するが、これは第2話に登場する雨のシーンとも連動している。

 糖尿病で足の切断危機にある母親の入院費を工面するため離婚した元妻の家に出向いたものの断られ、元妻の再婚相手を殴ってしまう。ギフンの娘ガヨンは雨の中を歩いて帰る実父のため黒い立派な傘を持って出てきた。折れた傘ではなさそうだ。傘という言葉は困っている人に手を差し伸べるという意味でも使われる。残忍なデスゲームが続く過程でギフンが誰かの傘で守られること、あるいは誰かの傘になっていくことがこの2つの場面で暗示されている。実際にギフンは、困っていたり手こずっているゲーム参加者を見過ごしはしない姿を見せている。

「〇」は作業員、「△」は兵隊、「□」は上官という階級

 第2話と第3話では、赤いコスチュームを着た運営側の上下関係がはっきりと分かる場面が多く登場した。ファン・ドンヒョク監督は運営側の衣装について昆虫のアリから着想を得たと明かしている。アリの群れの一匹一匹はどれも同じに見えるが、それぞれ役割が決まっている。デスゲームの運営組織も同様で、仮面の図形が「〇」は現場作業員、「△」は兵隊、「□」は上官という階級が存在している。

 棺に入った死体を焼却炉に運んでいるのが「〇」、銃を構えて運営作業を統制しているのが「△」、トップに立つ「フロントマン」への報告や参加者への告知を担当しているのが「□」だ。イカゲームは「〇」、「△」、「□」を組み合わせたイカ形の図を地面に描いて行われる。だからこれらの図形が仮面に反映されているのだろうが、それだけではなさそうだ。

 この「□」はハングルで使用される文字でもあるが、もともとは人間の口の形を形象しており言語学では「両唇音」に区分される。「口」の仮面の男が報告や告知をするために口を開くのはハングルと関係しているのかもしれない。

 一方、「〇」は命令に絶対服従、いつでも「〇=OK」としか言えないことを形象、「△」は立場上、「〇」と「□」の中間にいるから、とも解釈できそうだ。「〇」「△」「□」、ともに15世紀に創られた文字体系である訓民正音の子音字母に存在した文字であり、もしこれに関係するなら極めて入念な作り込みと言えそうだ。

階段シーン エッシャーの「上昇と下降」がモチーフ

 セットをよく見ると、運営側や勝ち残った参加者がアリの行進のようにカラフルな階段を昇り降りするするが、方向感覚を狂わせるような奇妙な形をしている。これはオランダの画家マウリッツ・エッシャーのリトグラフ「上昇と下降」をモチーフにしているようだ。第2話に登場したベルギーの画家ルネ・マグリットの作品「光の帝国」と同じように視覚的なパラドックスを作ることで視聴者を魅惑するのだ。

 現実の社会が暗いトーンで表現されているのに対しサバイバルゲーム場は色彩豊かでファンタジーのように装飾されている。内と外をまったく異なる世界として表現した空間美術の秀逸さがこのドラマの大きな魅力だ。

 次回は第4話(エピソード4)を取り上げる。

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