大ヒット作「イカゲーム」EP2解説 ブタの貯金箱とラカンの本、壁の絵画に隠された意図

Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創設以来最大のヒット作となった。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第2話(エピソード2)について紹介する。Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創設以来最大のヒット作となった。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第2話(エピソード2)について紹介する。

「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェ 【写真:(C))Netflix】
「イカゲーム」の主人公ソン・ギフンを演じたイ・ジョンジェ 【写真:(C))Netflix】

ブタは縁起の良い動物 ドラマでは狂気のシンボル

 Netflixオリジナルの韓国ドラマ「イカゲーム」が世界的な人気を集めている。9月17日に配信が開始されるとNetflix全米1位を獲得する快挙を達成。配信後ほぼ1か月で全世界1億4200万世帯が視聴し、94か国でランキング1位を記録するなどNetflix創設以来最大のヒット作となった。画面の隅々まで行きわたっている伏線の“構成美”について解説するコラムシリーズ。今回は第2話(エピソード2)について紹介する。(文・構成=鄭孝俊)

(※以下、ドラマの内容に関する記述があります)

 第1話に登場した「ムクゲの花が咲きました」(日本ではだるまさんが転んだ)のゲームでは、恐怖の巨大ヨンヒ人形の眼球に体の動きをキャッチされた参加者が容赦なく銃撃され次々と命を落とす残忍なシーンが描かれた。第2話は全参加者456人中、死亡した255人を除く201人が生き延び、各自のベッドが設置された会場に戻ってくるシーンから始まる。

 ゲーム開始にあたり参加者は参加同意書に署名している(第1話参照)。条件は3つ。【第1項】参加者は任意でゲームを中断することができない、【第2項】ゲームを拒否する参加者は脱落して処理される、【第3項】参加者の過半数が同意する場合はゲームを中断することができる。

 おびえる参加者たちは「解放してほしい」と涙ながらに訴え、参加同意書の第3項に基づいて続行、中断の2択を投票で決めることになった。多数決をとる前に運営側は、積み立てられた賞金を公開する。天井から吊り下げられた透明な巨大貯金箱に札束がバラバラと降り注ぎ、みるみるうちに膨れ上がっていく。

 着目すべきは貯金箱がブタの顔の形になっていること。日本の十二支は「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」で12番目の「亥」には「猪(いのしし)」の字が割り当てられているが、韓国は中国と同じで「豚(韓国語でテジ)」となっている。ブタは多産で財産を増やしてくれる縁起のいいシンボルとされており、事務所開きや新規事業の開始時にはゆでた豚の口に紙幣を挟んで繁栄や成功を祈る「告祀(コサ)」という儀式が今でも広く行われている。韓国の文化を知るうえでも興味深いシーンだ。

 財産を増やしてくれる縁起のいいブタが、「イカゲーム」では参加者を狂気に駆り立てる装置と化す。脱落した死亡者は255人。1人当たり1億ウォンが積み立てられた結果、賞金総額は255億ウォン(約25億円)となった。降り積もる札束を見た多くの参加者は目の色を変え、ゲーム続行へと態度を変える。人間の欲深さを映し出す重要な場面だが、ゲームが進むにつれこうした欲望や醜悪さはどんどんエスカレートしていく。しかし、それは322番の参加者が「ここには希望があるけど外には何もない。どうせ死ぬならオレはチャンスに賭ける」と叫んだように、外=現実の生活に希望がないことを前提としている。

次のページへ (2/2) セットで使われたラカンの「欲望理論」とマグリット「光の帝国」
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