【週末は女子プロレス#20】アイドルをクビになった“自称クビドル” 東京女子・伊藤麻希の夢は東京ドームのリング
来年3・22には両国大会「プロレスラーになったからには」
「あの規模の会場でのシングルマッチは初めてで、立ってみないとわからないことがたくさんありました。ファンのリアクションがよくわからなかったんですよ。小さい会場なら細かいところまでわかったんでしょうけど、お客さん全員が拍手するようなところしかわからなくて、終始不安だったんですよね。お客さんがついてきてるのか、ずっと気になってました」
山下と闘いながら、場内の雰囲気とも闘っていく。これまでならお手の物だったスタイルが、大田区クラスの大会場では思うように機能しない。試合後の山下は「(場内は)伊藤の空気だった」と語ったものの、肝心の本人が察知できず手探り状態。「100%ではなかった」(伊藤)というのが実際のところなのだろう。場内すべてをコントロールできなかったのは「大会場慣れしていなかった」ことが最大の原因と、伊藤は分析している。
「(山下の)スカルキックを食らったときにはもう立てなくて、絶叫することしかできなかった。そのとき、負けるなってなんとなくわかったんですね。ここまでなんだなと、自分の限界を知ったんです」
そして伊藤は、山下の必殺技クラッシュラビットヒートを叩き込まれ3カウントを聞く。
「自分ができることをすべてやっての結果だから仕方ないです。だったらもう、強くなるしかないなって」
これまで、場の空気を変える力なら伊藤の独壇場だった。しかし、レスラーとしての強さなら山下に軍配が上がる。試合前から伊藤はそこの部分は認めていた。伊藤の発信する人間力でも山下には届かなかった。ならば単純に、強くなるしかないのだろうか。
「勝てば自分で両国大会を発表できた? ああ、そうですね。いま言われて(自分で)言いたかったなと思いました。あのときは、なんだろう?……心の整理がついてなくて、両国って文字を(スクリーンに)見てうれしかったけど、心情としては喜びたくなかった(苦笑)。なんか燃え尽き症候群じゃないですけど、家に帰ってからすごい喪失感に襲われて、次、何をがんばればいいのかわからなくなったんですよ。本気で強いを目指すのか、それとも自分らしく自分のプロレスで強いを目指すのか……」
10・16新木場で、東京女子の“アフター大田区”“ロード・トゥ・両国”がスタートした。メインでは山下&伊藤組の121000000が再始動。やはり山下は山下らしく、伊藤は伊藤らしくが一番似合っていると言えそうだ。山下が再び絶対王者として両国までベルトを持ちつづけるか、それとも山下を脅かす存在が現れるのか。そしてもちろん、伊藤の動向からも目が離せない。試合直後には無になったとはいえ、今後、なんだかんだと話題をかっさらってくるに違いない。なんといっても伊藤には、「東京女子を満員の東京ドームに連れていく」との使命がある。大田区では敗れたものの、団体全体で足掛かりはつかんだ。次のステップが、来年3・22両国だ。
「プロレスラーになったからには絶対に東京ドームでやりたいと思ってるんですよ。できたとしてもスカスカじゃ満足できないから、満員のドームでリングに立ちたいと自分の中では思ってるんですね」と、伊藤は究極の目標についてこう語る。「踏んだり蹴ったりの人生」から彼女はプロレスによって生きる力をもらい、プロレスによって人の心を揺さぶることができると知った。
「この世に絶対(無理)なんてない。自分次第でどうにでもなるんだということが分かったんですよね」
だからこそ、東京女子の東京ドーム進出も不可能ではないだろう。後楽園、東京ドームシティホール、大田区総合体育館を経ての両国国技館と段階を踏んで成長する東京女子。そこには、伊藤が大きな役割を果たしている。自虐ネタさえ大きな武器。彼女の醸し出す唯一無二の存在感が、東京女子をさらなる高みへと連れていく。