朝倉未来は世界に通用するのか 萩原京平戦の苦戦で見えた課題と光明をひも解く
「プロレスラー」という市場価値
次に第2試合で春日井“寒天”たけしの右腕をあり得ない方向に曲げて破壊し、衝撃のフィニッシュシーンを現出させた今成正和だが、試合後の今成は「最初、腕がポキポキって鳴っても、まいったしないんですよね。だから、これ以上どうしようかな?と思ってセットし直したところでまいったしたので『あ、そうか』って感じっす」とコメント。
やられた春日井は試合後に現役引退を発表していたが、今成の「殺し」は今大会が地上波の生放送ではなく、配信特化型イベントだったことも手伝って現出した「場面」だとしたら、今成こそが「RIZIN LANDMARK」の開催意義を最も理解していたのかもしれないと思えるものだった。
さらに第3試合に登場した“怪物くん”鈴木博昭が「プロレスラー」の奥田啓介をKOし、衝撃のデビューを飾った試合では、両者の前のめりな気持ちが感じられた結果が呼び込んだ「場面」だけに、勝った鈴木はもちろん、敗れた奥田にも拍手を送りたい気持ちにかられた。
記者は「やる側」の気持ちは分からないが、本音を言えば、「RIZIN LANDMARK 01」の試合は、どれも決してレベルが高いものではないと思ったし、ファイターの中には「この程度でいいなら、俺もRIZINに出られる」と思ったファイターがいてもおかしくはないと思う。
だが、出て終わりであるなら、そんなファイターは特にRIZINではすぐに声がかからなくなる。それはRIZINのたどってきた道のりを見れば明らかだ。
例えば今回、奥田は敗れたが、それでも今回の「仕事」の出来は悪くなかった。欲を言えばもうひと声ほしかったし、できれば衝撃的に勝ってもらいたかったが、それでも「プロレスラー」の肩書きを背負ってRIZINに出てきた、過去の選手たちに比べても、「もう見たくない」と思うほどの悪い出来だとは、少なくとも記者は思わなかった。
本来、「プロレスラー」といえば重量級のイメージが強いが、奥田に限ってはRIZINの旗揚げ戦(15年12月29日、さいたまスーパーアリーナ)であった桜庭和志VS青木真也以来、階級制の試合に「プロレスラー」が参戦したことになる。
その時点でも久々の試みだったし、そもそも「プロレスラー」の肩書きを持ちながらMMA戦ができるファイターの数が圧倒的に限られる以上、タイミング次第では、また奥田にも声がかかる可能性は十分あるだろう。市場価値とはそういうものではないか。
しかし奥田とて、今のままでは似たような結果になる可能性も否定できないため、声がかかっても受けるかどうかは不明だが、少なくとも今回敗れたファイターの中では極めて異質なキャラクターであることは確か。
そうでなくともコロナ禍で海外からの外国人選手を招へいしづらいのが現状なのだ。
イベントとは色どりであり、なるべく「見る側」を飽きさせないだけの多様なキャラクターがそろっていることが望まれる。たとえそれが勝敗を争う格闘技であっても、「見る側」がいる限りその側面を決して無視することはできない。
ともあれ、今年も大みそかというクライマックスに向け、ファイターそれぞれの思惑が入り乱れつつ、水面の上と下の両面で本格的な動きがスタートしたような大会だったと言えるだろう。