【週末は女子プロレス#11】24年前のリング禍を風化させるな―プラム麻里子さんから学んだ教訓

プラム麻里子さんに思いをはせるコマンドボリショイ社長【写真:新井宏】
プラム麻里子さんに思いをはせるコマンドボリショイ社長【写真:新井宏】

「事故を起こさないような訓練をして、知識を得て勉強していく」

「プラムさんが亡くなられて24年が経ちました。世代が変わってもプラムさんへの思いは、みな変わりません。プラムさんから学んだことをこれからずっとずっと伝えていきたいと思います」

 入場式でマイクを取り、こうあいさつしたのはボリショイだった。ボリショイは2019年4月に持病が原因で現役を引退、30年に及ぶレスラー生活に幕を閉じた。しかしマスクは脱がず、覆面社長として団体を切り盛りしている。現場にこだわり続けるのは、「プラムさんからの教えは自分が後輩に伝えていかなければならない」との責任感。ボリショイはかつてプラムさんの付き人だった。ジャパン女子に入門し、初めての仕事が先輩プラムさんの世話役だったのだ。当時は先輩レスラーから叱られて当たり前。しかしボリショイはプラム先輩から怒られたことはまったくないとのこと。それどころか、他の先輩から怒られ萎縮している姿を見て、むしろ勇気づけてくれたのだという。それだけに、最後の試合でタッグパートナーになったのは偶然とは思えない……。

 大会では、各選手がプラムさんの使っていた技を出したり、マイクでプラムさんに対する思いを口にした。また、見えないところでもプラムさんからの教えはボリショイを通じて確実に伝わっている。小規模ながらも、そう感じた大会だった。

「当時は練習中、まともに水も飲めない時代でした。飲んだら負けという雰囲気があったんですよね。でももう、そんな時代じゃない。人間の体って、そんなに頑丈じゃないんです。あのとき、プラムさんは体調が悪かったんだと思います。横にいて、いつもと違うなという感じはありました。でも、それを口に出す時代じゃなかった。今はもう違いますよね。勇気は要ると思いますけど、調子がおかしかったら正直に言っていい。口下手な子でも何かしらの信号は出しているので、こちらもそれをキャッチしないといけない。ときにはズルしたいときもあるかもしれないけど、ズルしたければしたらいい。あとで返ってくるのは自分ですからね。いまは、『教えてください!』って私のところに来る子だけに教えてます。昔みたいに首根っこつかんでやらせるってことはないです(笑)。本当に体調が悪かったら言わないといけないし、言える社会にしていかないといけないですよね。応援してくれるファンが安心して好きな選手を応援できる環境を作っていこうと思ってます。

 それに、ただ単になんでも思い切りやればいいんじゃなくて、思い切りできるようにするためにはキチンと精密検査も受けて、事故を起こさないような訓練をして、知識を得て勉強していく。悪いところがあれば専門家に診てもらう。そういったことが必要だと、私はプラムさんから教わりました。プラムさんが教えてくれたことを教訓に、私たちはそういう覚悟でプロレスやってますよということを、みんなに知ってもらいたいですね。もちろん、これからもメモリアル大会は続けていきます」

 ボリショイはまた、「プラムさんは引退したわけじゃない」とも言う。確かにそうだ。だからこそ、「ずっと私たちのそばにいる」と感じている。選手たちは常日頃からボリショイを通じてプラムさんからの教訓を胸に刻んでいる。見る側は一年に一度でもいいからプラム麻里子というプロレスラーがいたことを思い出してほしい、知らなければ知ってほしい。毎年8月中旬が、その機会だ。

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