稲川淳二が障がい者アーティストを支援する理由 育成プロジェクト「稲川芸術祭」がスタート

怪談家の稲川淳二(73)が、この夏、パラアーティストの育成を目的に立ち上げたプロジェクト「稲川芸術祭」をスタートさせた。実はあまり知られていないが、障がいのある子を持つ1人の親として、長きにわたって全国で障がい者を支援する講演活動を行ってきた。今回初めて表舞台での支援を決意した理由とは? 今年も全国で恐怖と笑いを振りまいている「怪談ナイト」の怪場(=会場)で聞いた。

応募作品を前に「稲川芸術祭」について語った【写真提供:(C)稲川芸術祭】
応募作品を前に「稲川芸術祭」について語った【写真提供:(C)稲川芸術祭】

作品テーマは「楽しい!おばけ ゆかいな!おばけ」

 怪談家の稲川淳二(73)が、この夏、パラアーティストの育成を目的に立ち上げたプロジェクト「稲川芸術祭」をスタートさせた。実はあまり知られていないが、障がいのある子を持つ1人の親として、長きにわたって全国で障がい者を支援する講演活動を行ってきた。今回初めて表舞台での支援を決意した理由とは? 今年も全国で恐怖と笑いを振りまいている「怪談ナイト」の怪場(=会場)で聞いた。(取材・文=福嶋剛)

「稲川芸術祭~inagawa-art-festival」は、次世代を担うパラアーティストの育成を目的に今年立ち上げた新たな企画。毎年テーマに沿った作品を募集し、応募作品はオフィシャルHP「稲川芸術祭」内の「稲川オンライン美術館」にて随時紹介され、すべての参加作品を掲載した絵画集を参加者全員にプレゼントする。また最優秀作品に選ばれたアーティストには「稲川賞 アワード 2021」の称号が与えられ、記念品が授与されるなど、優れたパラアーティストの作品を日本、そして世界へと発信していこうという試みだ。

 1回目の作品テーマは「楽しい!おばけ ゆかいな!おばけ」。7月1日から募集を開始し、10代から60代と幅広い層からの作品が全国から続々と届いている。今回はその中から飾られた30点の作品一点一点を優しいまなざしで眺めながら「稲川芸術祭」のきっかけについて語った。

「いつも怪談ナイトを手伝ってくれる友人から『障がい者アーティストを支援する活動を行いたい』という相談がありましてね。彼は私のことをすごくよく分かっていて『稲川さんと一緒にやりたい』って言ってくれたんです。初めはちょっとしたお手伝いを考えていたんだけれど、『この絵を見てください』って私にいろいろと作品を見せてくれましてね。どれも素直だし、伸び伸びとしていて自由だし、どれ一つ似たような絵がないんですよね。今回の作品も見てくださいよ。色使いも個性豊かだし。見ているだけで楽しくなりますよね」

 稲川が障がい者のアートに出会ったのは高校生だったという

「当時、絵描きを目指していた親友がいましてね、よく彼に付き合って画材屋屋さんに行ったんですけど、立川にあった画材屋に入ったら大きなキャンバスに向かって障がいを持った人が、どんどんすごい絵を描いていくんだ。店主に聞いたら、彼は実際に見た景色を全部頭に入れていてそれを描いているっていうんですよ。つまりね、あの時、気付いたんだけど、みんな障がいって言うけれど、彼らは私たちが持ってない優れた才能をいっぱい持っているんですよ。

 私たちが気付かないものを絵にしたり、形にできるんですね。そんな作品が街に飾られていたらどんなに楽しいだろうって思いましてね。こんなにすごい作品を皆さんにお見せしない手は無い、いや絶対に見せなきゃいけないってそう思ったんです」

 続けて稲川は目頭を熱くしながら話した。

「私の息子は、障がいを持って生まれたんですね。2歳くらいだったかな、ある時、たまたま置いてあった絵柄の付いた積み木を見つけてね。それをグラデーションの順番通りに並べたんですよ。『2歳の子どもがなんで?』って驚きましたね。その色を眺めている息子の顔を見ていると『お前すごく理解できているぞ』って。私も絵が好きで工業デザインの道に進みましたから『さすが自分の息子だ!』なんて誇らしくなっちゃってね。父としてうれしかったですね」

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