打ち合わせなしで「しゃべりたいことしゃべる」“細かすぎる”人情マラソン解説、増田明美の極意

マラソンや駅伝中継で、愛情をもって選手たちの人間ドラマを紡ぐ、少し早いテンポの語り口――。1984年ロサンゼルス五輪女子マラソン日本代表でスポーツジャーナリストの増田明美さん(56)の解説だ。選手の人柄や意外なトリビアを織り交ぜ、「細かすぎる解説」として知られる。「人を伝える」という信念には、故・永六輔さんの教えが貫かれ、“ダメ出し”が入るほどの選手との距離の近さがある。1月26日に開催される「第39回大阪国際女子マラソン」(正午~午後2時55分、カンテレ・フジテレビ系全国放送)の解説を担当する“増田流”の極意を聞いた。

「第39回大阪国際女子マラソン」で解説を務める増田明美さん
「第39回大阪国際女子マラソン」で解説を務める増田明美さん

1・26号砲「第39回大阪国際女子マラソン」 有森裕子さん、高橋尚子さん、野口みずきさんら“レジェンド”解説陣が集結

 マラソンや駅伝中継で、愛情をもって選手たちの人間ドラマを紡ぐ、少し早いテンポの語り口――。1984年ロサンゼルス五輪女子マラソン日本代表でスポーツジャーナリストの増田明美さん(56)の解説だ。選手の人柄や意外なトリビアを織り交ぜ、「細かすぎる解説」として知られる。「人を伝える」という信念には、故・永六輔さんの教えが貫かれ、“ダメ出し”が入るほどの選手との距離の近さがある。1月26日に開催される「第39回大阪国際女子マラソン」(正午~午後2時55分、カンテレ・フジテレビ系全国放送)の解説を担当する“増田流”の極意を聞いた。

軽トラからセンチュリー、バイクにバギー…大御所タレントの仰天愛車遍歴(JAF Mate Onlineへ)

 今回の大阪国際は、東京五輪女子マラソン代表の最後の1枠を争う選考会「マラソングランドチャンピオンシップ(MGC)ファイナルチャレンジ」として実施される。設定記録は、2時間22分22秒。国内屈指の高速コースといわれる今回のレースには、福士加代子選手(ワコール)、松田瑞生選手(ダイハツ)、小原怜選手(天満屋)ら有力ランナーが集まった。また、大阪国際は増田さんにとって縁深い。選手として4度出場し、1993年から長らく解説を務めてきた。

 大阪国際の解説陣は、五輪メダリストの有森裕子さん、高橋尚子さん、野口みずきさんに加え、世界選手権メダリストの千葉真子さんといった女子マラソン界の“レジェンド”が集結する。副音声は、土佐礼子さんと渋井陽子さんが務める。

 増田さんは「解説者で駅伝ができそう」と笑う。それも、打ち合わせなし。「自分がしゃべりたいことをしゃべる。マラソンはチームスポーツではなく、マラソンランナーは我を押し通してゴールする。だからみんなの感覚で自分らしくやっています」と、マラソン選手出身者ならではの解説の自由度について、“解説”する。

 増田さんの独自スタイルを支えているのは、記者顔負けの緻密で幅広い取材だ。「なんでもノート」には多くの情報が書き込まれている。例えば、大阪国際では「招待選手の囲み取材があって、そこで聞く内容はみんな一緒。私はそれ以外のことを取材します」。駅伝の際に事前に小ネタを仕込み、大会本番に向けた朝練習で個別に話を聞く。それに、選手の家族とも人間関係を築き、選手の人となりを丹念に取材していく。

 今回、高橋さんと同じ中継車に乗ることから、「バランスとして競技のことは基本はQちゃんに言ってもらう。私はエピソードの部分。心がけているのは、選手である前に人なんだ、というところ」と強調する。伝えたいポイントは「選手が大事にしている言葉、どういう競技生活だったのか、子供の頃からの性格。1つ、2つを出したい」と熱き思いを語る。

「人」にスポットライトを当てるスタイル。現役引退後にラジオの仕事を通して出会った永六輔さんの影響が大きいという。「永さんは『マラソン中継を観るのが好きなんだけど、独走になるとつまらなくなる。独走になった時に、俳句の一句でも詠んで工夫したほうがいい』とよく言っていたんです」。教わったのは、見る人を「飽きさせない」解説だった。増田さん自身、仙台で行われた全日本実業団対抗女子駅伝(クイーンズ駅伝)の解説で、宮城県にもゆかりのある松尾芭蕉の俳句を紹介したことがあるという。

 増田さんの解説の特徴のひとつが、独創的な選手のニックネームだ。誰よりも探求心を持つ福士選手は「マラソンの研究者」。東京五輪マラソン代表に内定している前田穂南選手(天満屋)には、天満屋のピンクのユニホーム、前田選手の足の長さなどから着想を得て、「ド根性フラミンゴ」と名付けた。これまで五輪代表の座をあと一歩のところで逃してきている岡山県出身の小原選手には、応援の意味も込めて、「悔し涙の桃太郎」と名付けた。そして、今回の大阪国際でペースメーカーを務めるドーハ世界選手権1万メートル代表の新谷仁美選手(東京陸協)には、「鬼」を絡めた新たなキャッチフレーズを考えているという。
 
 一方で、選手本人からいい意味の“ダメ出し”が入ることも。松田選手について、解説のトリビアとして紫芋のアイスが好きだという情報を仕入れたが、「私があまりにも紫芋とばかり言い過ぎるので、本人から『紫芋のアイスなのに、紫芋と言っている』と怒られたので、今度はアイスと言い始めたら、『もうそれは違うんです。今は生クリームが好きなんです』と言われました」と笑顔で話す。選手との距離の近さならではのエピソードだ。

 近年、レベルアップが加わった。2017年に放送されたNHK朝ドラ「ひよっこ」で語りを担当した経験だ。「競技者として負けちゃいけない、強くやらないといけないという生き方をしてきましたが、『ひよっこ』を通して、寄り添いながらの語りを教えてもらいました」と振り返る。実感したのは「俳優、ドラマの脚本・演出の方々は優しい。心のひだが多いんです」ということ。「(主演を務めた)有村架純さんはあれだけ人気なのに、きゃぴきゃぴしていない。常に落ち着いている。すごく学びました」と実感を込める。

 開催の迫る大阪国際について、「1枠を争う緊張感。スピードランナーも多く、それぞれにドラマがある。すごく面白くなる」と期待を寄せる増田さん。マラソンを勝ち切る秘訣について、「最後の最後は全員が疲れている。みんなきついけど、ぎりぎりのところでもう一歩の力が出せる人には、人間力がある。どれだけ日々の生活、人生の中で踏ん張って我慢してきたか。そこに瞬間的な我慢強さが出る」と語る。

 解説者としての今後について、「ずっと私がここにいたら若い人も大変。でも、現場が好きなのでお声がけをいただけるところで、『人』を伝えながらやっていきたい」と謙虚に話しながらも、増田さんの声には大きな力がみなぎっていた。

次のページへ (2/2) 取材ノートの貴重写真も
1 2
あなたの“気になる”を教えてください