なぜ今“教育”なのか 海老蔵が出資で話題、今注目のリベラルアーツ教育とは

環境問題の解決がサマースクールの主題も、狙いはリベラルアーツ教育の普及

 近年では国際教養大設立や早稲田大、上智大などでも国際教養学部が新設されるなど、日本の教育現場でも広がりを見せているものの、日本の大学教育で正しくリベラルアーツを実践するには構造的な限界もあると青木氏は指摘する。

「リベラルアーツでは、ものすごい量の論文とディスカッションをこなした上で初めて自分の考えを確立していくんですが、日本の大学では学生の数に対し、論文を添削する教授のリソースがあまりにも少ない。伝統的に教授からの一方的な講義形式が多く、圧倒的にアウトプットが足りていないと感じます。ただ、これは米国のリベラルアーツ大学の弱点でもあって、だいたい学生5人に1人の割合で教授がつくぶん、学費がものすごく高い。少人数でさまざまな専門分野からの実践的な教育ができないか、その実験的な試みが今回のサマースクールなんです」

 各分野の専門家を招いてリベラルアーツ式の講義を行い、さらにディスカッションを重ねて環境問題への自分なりの考えを深めていくことが「KOTOWARI 会津サマースクール」の主題だが、真の狙いはもう少し先にあるという。

「もちろん、今深刻な問題であることが大前提ですが、環境問題をテーマにしたのはリベラルアーツとの相性がよかったから。環境問題は経済学や気象学、地質学の知識はもちろん、国際関係、人口問題や食糧問題、もっといえば倫理や歴史的な資本主義の成り立ちまで、さまざまな問題が絡み合った非常に複雑なテーマ。政治やコロナの問題もそうですが、答えのない状況下で異なる分野がぶつかるときに対立が起こる。その解決はそれぞれの分野を相対的に捉えるリベラルアーツの視点でしかできないものです。今の時代だからこそリベラルアーツの思考法が必要で、それは教育でしか成しえないものと思っています」

 市川海老蔵も共感し、クラウドファンディングを募るリベラルアーツ教育。それは環境問題の解決に留まらず、これからの激動の時代を生きるヒントにもなるかもしれない。

◇KOTOWARI会津サマースクール
米リベラルアーツ大出身で多様な専門性を持つ主催者たちと、歌舞伎俳優の市川海老蔵が代表を務める「NPO法人Earth&Human」による連携事業「KOTOWARI」が、8月17日から20日にかけて福島県南会津町・会津山村道場で開催。高校生、大学生、大学院生らを対象に15名を募集して実施する。参加者は宿泊費、食費、プログラム費無料。若者による、若者のための環境教育プロジェクトで、気候変動や環境問題の概要と提起される諸問題、近現代という時代の価値観と自然観、資本主義と環境問題の関係、都市の中での人間と自然環境、気候時代の道徳と倫理などが主なトピック。斎藤幸平氏(経済思想家)、荒谷大輔氏(哲学者)、武田悠作氏(経営学者)がゲスト講師として参加予定。

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