不条理感じるZ世代のための学びの場 俯瞰的思考力を養うリベラルアーツの可能性とその先

「人間の幅を広げる道具に過ぎない」 リベラルアーツの先を見据えた内容も

「人間という存在には世代、所属、社会的地位、国籍、美的感覚やある方面への知的興味や関心などさまざまな側面があって、それらの関わりの中で一人の人間が形作られています。中には普遍的なものもあれば、時代や環境によって変わるものもたくさんある。多方面の知識を学ぶことで自分の世界が広がり、自分と世界との交わる点が見え、また、自分自身のあり方が確立されてくる。だから、リベラルアーツ教育を通して出てくる答えは人によって違うし、その意見の違いから共通項を探ることで新たな視界が開けることもある」

 今回のサマースクールでは哲学、経営学、農業などの専門家を講師に招き、近現代という時代の自然観や資本主義、道徳や倫理の観点からも講義と議論を行う。その過程で問題を多角的かつ本質的に捉えるリベラルアーツの思考が身につく一方、リベラルアーツの先を見据えた学びも行う予定だ。

「リベラルアーツは人間の幅を広げていく西洋的な近代知性の枠組みであって、道具に過ぎないんです。この知性という道具の使い方は教えられても、その使い道を押し付けることもできなければ、どんな使い道が善くて正しいのかを求めていくこともできない。これまで高度なリベラルアーツ教育を受けた人が、資本主義の枠組みの中で経済活動を変わらずに行い、それが環境問題にもつながっているのが現代。環境問題の解決にリベラルアーツ的な思考力も有効だが、問題を生み出したのと同じマインドセットでは答えは見えない」

 目指すのはリベラルアーツの獲得に留まらず、それを使う自己の内面へ目を向けることだと青木氏はいう。

「本当の知性の使い道を知る、というのが環境問題が深刻化する今、求められていることだと思います。これだけたくさんの専門分野や知識が世の中にあり、リベラルアーツの思考を身に着けた人たちも世界にはいる。しかし、この知性がただ人間の欲望を叶えるための道具となってしまっている。例えるに、山登りの地図もあれば登山道具もあるけど、コンパスがない。どちらに向かえばいいのかわからないのです。最も『不都合な真実』は、私たち自身の内面にあるということに向き合わなければいけない時期が今なのでは。リベラルアーツの枠組みを超えて、禅問答や瞑想(めいそう)といった東洋的な伝統の中で培われた『無』の本質直観の世界にヒントがある、というところまで学びを深められれば」

 これからを生きていく若者にとっても、先の見えない激動の時代。何が正しいのか、自分とは何か、世界とどう関わっていけばいいのか。コロナ禍で迎える2度目の夏、会津でその答えが見つかるかもしれない。

◇KOTOWARI会津サマースクール
米リベラルアーツ大出身で多様な専門性を持つ主催者たちと、歌舞伎俳優の市川海老蔵が代表を務める「NPO法人Earth&Human」による連携事業「KOTOWARI」が、8月17日から20日にかけて福島県南会津町・会津山村道場で開催。高校生、大学生、大学院生らを対象に15名を募集して実施する。参加者は宿泊費、食費、プログラム費無料。若者による、若者のための環境教育プロジェクトで、気候変動や環境問題の概要と提起される諸問題、近現代という時代の価値観と自然観、資本主義と環境問題の関係、都市の中での人間と自然環境、気候時代の道徳と倫理などが主なトピック。斎藤幸平氏(経済思想家)、荒谷大輔氏(哲学者)、武田悠作氏(経営学者)がゲスト講師として参加予定。

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