小野田少尉を描いたカンヌ反響の話題作 遠藤雄弥と津田寛治が明かす「大冒険」の撮影秘話

カンヌ映画祭の会場にいるアラリ監督とリモートで語り合った遠藤雄弥(左)と津田寛治【写真:ENCOUNT編集部】
カンヌ映画祭の会場にいるアラリ監督とリモートで語り合った遠藤雄弥(左)と津田寛治【写真:ENCOUNT編集部】

津田「“狂気”と“理性”のせめぎ合いがあった」

――小野田少尉とはどのような人物だと思いますか?

遠藤「高所恐怖症でパイロットになれなかった青年が、上官から生き残って戦地の情報収集をするよう命じられる。自分は特別だと信じて任務を遂行していくんですね。津田さんのパートになって1人になってもかたくなに続ける曲がらない精神性と力強さがありながらも迷いも見せる。演じていていろいろな感情が生まれました」

津田「“狂気”と“理性”のせめぎ合いが僕の中ですごくありましたね。命令の実現を仲間4人と秘密裡に進めていたから小野田はジャングルの中で理性的に過ごしていた。でもそこから30年ジャングルで過ごしていて“理性”を保てるのか、と考えました。毎日ジャングルの中にいて、しかも居心地の良い定住地を作らずに定期的に寝る場所を変えていく。ジャングルの持つ狂暴性、恐ろしさを如実に感じたと思う。小塚が死んだ後は、1人でボーっとするシーンばかり撮っていた。そのとき、『これは怖いな』と感じましたね。それは自分と向き合い過ぎてしまうから。アラリ監督はこれを描きたかったんだなとそのとき気付いた。アラリ監督自身が小野田になってジャングルを見つめていたのではないか、小野田はフィリピンのルバング島に入る前から心の中にジャングルを持っていたのではないか、そんな確信があります」

――実際に30年間、ジャングルに住むことになったらどうしますか?

遠藤「この映画を通して思ったんですが、自分だけじゃ何も成立しない。自分がいて共演者がいてせりふを交わして空気を作って、ディレクションしてくれる人がいて、撮ってくれる人がいて、映画を支えてくれるスタッフさんがいて映画が成り立つ、と本当にそう思えるようになりました。そういう意味では誰かとジャングルにいたいです(笑)」

津田「あのジャングルだったら絶対1人がいいな。年老いた小野田を演じたということもありますが、狂う自分を見られたくないんですよ。誰かを傷つけたくもないし。大事な人であればあるほど一緒にいてはマズイと思うし誰も連れて行きたくないです(笑)」

※「ONODA 一万夜を越えて」

 フランスで出版された小野田少尉の自伝「ONODA 30 ans seul en guerre(原題)」(Bernard Cendoron著)を原案に映画化。太平洋戦争終結後も命じられた任務を進めるためフィリピン・ルバング島のジャングルで生き抜き、約30年後の1974年に51歳で日本に帰国した旧陸軍の小野田寛郎少尉の史実を基に、フランス人のアルチュール・アラリ氏が監督を務めた。遠藤は小野田少尉の青年期、津田は成年期を演じた。せりふはほぼ日本語。日本人キャストはすべてオーディションで選考し、カンボジアのジャングルで2018年12月から19年3月まで撮影を行った。単なる小野田少尉という男の史実ではない、人間の生きる意味を問いかける作品となっている。共演は仲野太賀、松浦祐也、千葉哲也、諏訪敦彦、嶋田久作、イッセー尾形ら。10月8日TOHOシネマズ日比谷他で全国公開。

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