【その時音楽シーンが動いた #4】33回忌に振り返る美空ひばり 昭和とともに旅立った“歌謡界の女王”
本人の強い要望でシングル化された「川の流れのように」
演歌や歌謡曲にとどまらず、ジャズやGS(グループサウンズ)、フォークでも非凡な才能を発揮したひばりは晩年、若いクリエーターとも積極的に交流を図る。生前最後のシングルとなった「川の流れのように」(89年)は、当時新鋭の作詞家・秋元康と、一風堂のキーボーディストから作曲家に転じた見岳章が手がけた作品であった。
本人の強い要望でシングル化された「川の流れのように」は今でこそ誰もが知る代表作の1つであるが、発売当初はチャートの60位どまりで、お世辞にもヒットとは言い難かった。しかし、ひばりの急逝で状況は一変する。歌い手の人生と重ね合わせたような詞であることから追悼番組でたびたび流され、そこから急速に売れ行きを伸ばし始めたのだ。
7月2日には女性初となる国民栄誉賞の受賞が決定、没後に起きた“ひばり現象”は一層過熱する。それに伴い、シングルでは「みだれ髪」(87年)、「悲しい酒」の88年再発盤(オリジナルは66年)、「愛燦燦」(86年)もトップ100入りし、「川の流れのように」はオリコン8位まで上昇。アルバムチャートでも既発盤が続々とチャートインを果たし、青山葬儀所で本葬が営まれた後の7月31日付けでは実に12作がランキングされる。
8月21日にはオリジナル517曲を収録した35枚組の「美空ひばり大全集 今日の我れに明日は勝つ」が発売されるが、税込み6万円の高額商品にもかかわらず、同作はオリコン週間9位をマーク。この年の音楽ソフトの年間セールス(シングル、CD、カセット、LPの総売上金額)で、ひばりは1位の松任谷由実(56.5億円)、2位の工藤静香(54.3億円)に次ぐ53.9億円を記録する。それはほぼ6月24日以降の半年間で売り上げた数字であった。
それから32年。時代は平成から令和へと移ったが、ひばりの存在感は薄れるどころか、今も特別な輝きを放っている。その証拠にテレビではBSやCSを中心に「ひばり特番」を繰り返し放送。地上波でも昭和歌謡を扱う番組では必ずと言っていいほど過去の歌唱映像が使用され、今活躍している歌手がひばりの曲をカバーすることも珍しくない。
没後30年にあたる2019年には紅白歌合戦に「AI美空ひばり」が登場。20年に放送された「プロの声楽家が選ぶ、本当に歌がうまい女性歌手ベスト30」(TBS系)では現役のMISIA、吉田美和、Superflyらを抑えて堂々の1位となった。今なお継続的に話題を提供するひばりは往時を知らぬ若い世代にも“昭和歌謡の女王”として認知されている。
33回忌を迎える今年の6月24日には、名盤との誉れ高い2枚のジャズアルバム「ひばりとシャープ-虹の彼方-」(1961年)と「ひばりジャズを歌う~ナットキング・コールをしのんで~」(65年)がアナログ盤として復刻される。昭和のアイコンとなったひばりは、これからも多面的な魅力で新しいファンを獲得し続けていくに違いない。
(濱口英樹)