【私の宝物】デビューから60年第一線で活躍する俳優・高橋英樹が語る台本2000冊全て保管してきた意味
新型コロナウイルス感染症が世界中に広がり、皆が多くのことを諦め、捨てざるを得なかったなか、逆に、無くしたくないものは何なのか、改めて見つめ直した向きも少なくないだろう。自分にとって本当に大切なものは何か――。ENCOUNTでは著名人に聞くインタビューシリーズ「私の宝物」をスタートさせる。第1回は俳優・高橋英樹さん(77)。映画俳優として活動を始め、テレビでは時代劇はもとより現代劇、バラエティーでも活躍する。そんな高橋さんにとっては、出演作の台本が宝物だという。高橋さんに詳しい話を聞いた。
映画もドラマも舞台も全ての台本を倉庫に保管
新型コロナウイルス感染症が世界中に広がり、皆が多くのことを諦め、捨てざるを得なかったなか、逆に、無くしたくないものは何なのか、改めて見つめ直した向きも少なくないだろう。自分にとって本当に大切なものは何か――。ENCOUNTでは著名人に聞くインタビューシリーズ「私の宝物」をスタートさせる。第1回は俳優・高橋英樹さん(77)。映画俳優として活動を始め、テレビでは時代劇はもとより現代劇、バラエティーでも活躍する。そんな高橋さんにとっては、出演作の台本が宝物だという。高橋さんに詳しい話を聞いた。(取材・文=中野裕子)
「この2月に週刊誌に『これまで出演した作品の台本を捨てた。俳優引退か』などと書かれましてね。冗談じゃありません。まだまだ演じたいし、お芝居の台本は1冊も捨てていません。私をここまでにしてくれた作品なので映画もドラマも舞台も、全部で2000冊以上ありますが、全部取ってあります」
笑顔ではあるが、高橋さんはこうキッパリと言い切った。台本は自身のアトリエの、空調管理が行き届いた倉庫に、時代ごと、シリーズごとにきちんと分け、立てて並べて保管しているという。1960年代の日活時代の台本の表紙には、「高橋英樹様」と書かれている。
「日活の俳優部の係の人が一人一人に名前を書いて渡してくれました。だから、まさにこれは世界に1冊の私だけの台本です。私は中にはあまり書き込みをしないタイプ。自分のセリフに赤で印を付けたり、最近ですと蛍光ペンでラインを引いたりはしますけど、それぐらいです。『桃太郎侍』なんて蛍光ペンの跡すらない。毎週1本撮ってたから、線を引いてられなかったんでしょうね」
セリフ覚えが早く、現場に台本を持っていかない
台本はどれもとてもきれい。何十年も前の台本とは思えないほどだ。
「台本を受け取ったら、自宅で念入りに読みます。脚本家、プロデューサー、監督、役者……と違う目線から想像しながら5、6回読む。そうすれば頭に入りますから、その後はほとんど開きません。撮影現場に持っていくことも、ほとんどしません。セリフ覚えは圧倒的に早いんです。だからきれいなのかもしれません」
舞台作品にいたっては、1日で全て覚えてしまうという。すごい。若い頃からの訓練のたまものだろうか。
「若い頃は下手な役者だったから、セリフぐらいは覚えておかないと監督さんらにご迷惑をかけますから。台本を読んで、そこで生かされている人物を掌握すれば、演じるときにセリフは自然と出てきます。セリフは“行為”にすぎない。俳優の仕事はセリフを覚えること5%、どう表現するかが95%なんです」