「アマゾンと競争しても意味はない」独立系ECサイトが映画界に進出したワケ

映画「青葉家のテーブル」【写真:(C) 2021 Kurashicom Inc.】
映画「青葉家のテーブル」【写真:(C) 2021 Kurashicom Inc.】

一連の作品は映像レーベル「時間を楽しいものにするためのコンテンツに投資した」

 一連の作品は映像レーベルだと捉えている。「ある志向の人に向け、スタイルを固定したものを作り続けています。その人たちはどちらかというと、監督とか出演者じゃなくてレーベルを選ぶ。映画制作には実際のプロダクション費用とP&A(プリント&アドバタイジング=宣伝費)がかかり、P&Aは思った以上に大きいのですが、僕らは数百万単位ぐらいの人に一斉にお知らせする強力な機能があるんです」(青木社長)

 スマホアプリも100万ダウンロードの大人気だ。「僕らは大資本のバックがない独立事業者。Eコマースのプラットホームである楽天、アマゾンの中で商売しているんじゃなく、自立してやっています。だから、アマゾンと競争しても意味はない。象と闘うアリみたいなもの。似たようなもので安いものはアマゾンで買えてしまう。何か買いたいなと思っている人の取り合いに勝てるわけないけど、何も買う気がない人の取り合いには勝てる可能性がある。だから、お客さんになって欲しい人たちの興味を引く、時間を楽しいものにするためのコンテンツに投資したんです」(青木社長)

 それは創業当初からの考え方だという。「『楽しい時間ありがとう』と思ってもらいたいんです。それがドラマ、映画、ラジオになった。コンテンツの制作費は通常のメディアを運営するぐらいはかかりますが、それを広告で賄うよりも効率はいいです。コンテンツ制作費は売り上げに対するパーセンテージで決めているので、売り上げが上がっていけば、その分かけられるというわけです」と青木社長。

 その相乗効果もあって、売り上げは好調だ。兄妹が東京都国立市で立ち上げた会社は従業員80人、年商数十億円にもなる。ちなみに、「北欧、暮らしの道具店」発のドラマは同じ街が舞台という設定。最新作のアニメ「リヴィングライフ」では「青葉家のテーブル」の主人公、「ひとりごとエプロン」の主人公が登場し、まるでマーベルのような世界観を紡いでいる。

 2人に好きな映画を聞いてみた。「中学生の時は80年代で、ハリウッドのSFX映画が全盛期でしたね。今好きなのはNetflixの『マスター・オブ・ゼロ』。震えがくるくらい面白い」(青木社長)、「Netflixやアマゾンプライムビデオの作品には、悔しいくらい面白い作品が多いですね。最近は勉強目線で見ることもあるんですが、Netflixの『クイーンズ・ギャンビット』、アマゾンの『モダン・ラブ』は面白かった。最近は邦画もよく見ていて、『素晴らしき世界』がよかったです」(佐藤店長)。

 現在、新タイトルのドラマ2本を制作中。青木社長は「まずはウェブでドラマのパイロット版をやって、ファンを増やして、連ドラにします。この世界観を映画にしたら、この人たちを劇場に連れてこられるかもしれないっていう作り方を常にしていこうと思っています。アニメでも、ノベライズ、コミカライズというのも考えられますし、音楽もオリジナルで作っているので、展開できる。僕らは素人なので、学ぶ中で、お客様が求めてくださりつつ、ちゃんとビジネスとして成立できるものを見つけていきたい」と話す。

「北欧、暮らしの道具店」が映画界に新風を巻き起こせるか。期待したい。

□青木耕平(あおき・こうへい)株式会社クラシコム代表取締役。2006年、実妹である佐藤友子と株式会社クラシコム共同創業。2007年秋より北欧専門のECサイト「北欧、暮らしの道具店」を創業。現在は、EC事業のみならず、オリジナル商品の企画発、WEBサイト上でのコンテンツ配信など多岐にわたるライフスタイル事業を展開中。

□佐藤友子(さとう・ともこ)「北欧、暮らしの道具店」店長。株式会社クラシコム取締役。商品セレクト、ウェブの読み物、新プロジェクトなどの運営全般を行うほか、オリジナル商品開発などを手掛けるブランドマネージャーも兼務。1児の母。

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