「生半可な覚悟では同じ土俵に立てない」 篠原ゆき子が圧倒された高畑淳子の壮絶演技

「私の代表作になりました」と話す篠原ゆき子【写真:山口比佐夫】
「私の代表作になりました」と話す篠原ゆき子【写真:山口比佐夫】

高畑が演じたのは体が不自由な毒母…篠原「緊張で怖くて。プレッシャーを感じていた」

 確かに美咲役は難役だ。高畑演じる母は、娘に対しては言語障害を負いながらも強烈な言葉遣いで毒づく。倉科演じる親友役は鮮烈な印象だけを残し、理由が分からないまま、いなくなってしまう。美咲役にはそうした役のインパクトはない。日常の積み重ねで体現するしかないからだ。こうした役が一番難しい。

「最初は倉科さんと役の香織のイメージが結びつかなくて。倉科さんはすごく明るくて、パーフェクトなイメージ。でもいざ顔合わせをしてみると、香織の寂しさ、はかなさ、女としての痛みみたいなものが見えて、びっくりしました。高畑さんは、『やってくださったら、最高ですね』という話をしていたので、決まった時はすごくうれしかった。本読みでも、研究をされていて、すごいパワーで、“これは生半可な覚悟じゃ、同じ土俵に立てないぞ”と思っていました。高畑さんとのシーンの日が近づくにつれ、食欲もなくなる。なんかもう緊張で怖くて。勝手なプレッシャーを感じていたんですけど、結果的にすごく助けていただき、本当に素晴らしい経験をさせていただきました」

 映画は、女優たちのアンサンブルの素晴らしさはあるが、篠原は主役としてまっとうしている。「本当に美咲のままなんですけど、周囲の方々に助けていただいて、なんとかやり切った感じです。撮影中はコロナ禍だったので、ホテルと現場の行き来だけで、誰かと気晴らしに飲みに行くということもできず、何か消化できないまま、翌朝、現場に行く毎日。途中、自分は篠原なのか、美咲なのか、わからなくなって、精神的にもつらい時期もあったんです。でも、スタッフの方や高畑さんに助けを求めたら助けてもらえた。人に助けを求めると、助けていただけるんだなと体感できました」

 そのつらかった理由をもう少し深く聞いてみた。「主役なのに、こんな私でいいのか、芯や強みがないのに、これでいいのか。自信がなくて怖くて。私を主役にして、後悔しているんじゃないかって。監督は私を当て書きしてくださったとはおっしゃるけど、美咲は私と育ちも環境も全然違う。でも、そんな状況がコロナ禍のギリギリの中、美咲としてのギリギリさとシンクロしたんじゃないのかな」と振り返る。

 映画の出来栄えについてはどう見ているのか。「なかなか客観的に見られないんです。全部をさらけ出して、もう何にも残ってないです。それだけは確実に言えます。奥山プロデューサーからは『まあ、よくやったよね』っておっしゃっていただけましたが……」と篠原。記者が「代表作になったと思います」と強く言うと、「ちょっと自信がついてきました。はい、私の代表作になりました!」と笑い。「今後は人の弱さ、正しい人ではないなりのものを出していければと思っています」と語る。ますます人間味を持って、難役を演じてくれそうだ。

□篠原ゆき子(しのはら・ゆきこ)神奈川県出身。2005年、映画「中学生日記」で女優デビュー。11年、劇団ポツドールの舞台「おしまいのとき」で主役に抜てきされた。13年、「共喰い」で第28回高崎映画祭最優秀新進女優賞を受賞。主な出演作は「湯を沸かすほどの熱い愛」「浅田家!」「罪の声」「ミセス・ノイズィ」「あのこは貴族」など。ドラマにTBS系「リバース」「コウノドリ」、フジテレビ系「グッド・ドクター」、テレ朝系「相棒 season19」など。リブート版ハリウッド映画「モータル・コンバット」(6月18日公開)にも出演している。

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