“映画監督”佐藤二朗が山田孝之を主演に起用した理由 売春、差別、障害…タブー描く

映画監督について「『自分にしかできない表現がある』、そう信じられるものがあるうちは続けていきたい」と語る佐藤二朗【写真:荒川祐史】
映画監督について「『自分にしかできない表現がある』、そう信じられるものがあるうちは続けていきたい」と語る佐藤二朗【写真:荒川祐史】

僕が描きたかったこと「年齢が許すなら、多感な若い子たちにも見て欲しい」

 舞台となる島や置屋はまるでセットと見紛うが、愛知県知多郡南知多町でのロケだ。「撮影は19年2月、美術スタッフも頑張ってくれました。ちょうどオフシーズンだったので、人がいなかったので、(さびれた島の感じが出せて)よかったんです。僕も役者たち、スタッフも18日間、この映画の世界観に入り込めたような気がします」。

 映画には売春、差別、障害などさまざまなタブーが盛り込まれているが、それを描く怖さはまったくなかったのか。「怖さよりも、僕が描きたいことだったり、僕が書いた、このセリフを大好きなあの俳優がどんな芝居を見せるのか。その芝居を見たいという欲求の方が勝っているんです。実際、舞台では、女郎たちはもっといろんなものを抱えていたんです」。

 劇中の“売春島”は日本の縮図のようにも見える。島の人間は「この島から逃げたい」と言いながら、決して出てはいかないのだ。「僕は日本の縮図とは見ていなかったけれども、コロナの影響はあるかもしれません。今、日本全体が抑圧されている。それがこの島に抑圧されている女郎たちの姿に重なるのかもしれない。コロナによって公開が1年延びてしまったけども、そういう意味ではさらに今の方が是非見て欲しい作品になっていると思っています」。

 R15+(15歳未満は観覧禁止)というレーティングにはどう思っているのか。「性的な描写や際どいセリフもあるので、R15+でいいとは思います。ただ、年齢が許すなら、多感な若い子たちにも見て欲しい。というのも、今、一番闘っているのは子どもたちじゃないかと思うんです。僕自身も一番大変だったのは子どもの時だったから。今、大変な思いに向き会い、闘っている人に見て欲しいんです。NHK土曜ドラマ『ひきこもり先生』(6月12日スタート)では元ひきこもりの中学校の非常勤講師を演じていますが、生徒役の子たちはちょうど15歳くらい。彼らには『来年、見ろよ』って言っていますよ」と笑い。

 テレビ、映画に引っ張りダコの超売れっ子だが、映画監督も続けていく考え。「『自分にしかできない表現がある』と断言するのはちょっとおこがましいですけれども、自分の中に、そう信じられるものがあるうちは続けていきたい。今も3作目を準備中です。今度はもっとエンターテインメントで、間口が広い作品になります。地方に住んでいる、おじいちゃん、おばあちゃん、家族で見られるような作品になると思いますが、やる以上は、僕のテイストを入れるつもりです」と明かしてくれた。

□佐藤二朗(さとう・じろう)1969年5月7日、愛知県出身。96年、演劇ユニット「ちからわざ」を旗揚げ。全公演で、作・出演。近年の代表作はテレビ東京系「浦安鉄筋家族」、Amazon Original ドラマシリーズ「誰かが、見ている」、映画「銀魂」シリーズ、「ライオン・キング」「新解釈・三國志」「今日から俺は!!劇場版」など。今後は映画「かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~ ファイナル」「ザ・ファブル 第二章」、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」も控える。

スタイリング 鬼塚美代子(アンジュ)
ヘアメイク 今野亜季(エイエムラボ)

次のページへ (3/3) 【写真】タブーなき問題作「はるヲうるひと」の場面カット
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